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Yu u ka i i chi re n

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「あなたの胸は痛まないんですか」

震える声が、段々低く確かなものに変わる。

「私には理解出来ない。人同士が、簡単に殺し合うこの国の人たちが…!」
「わかるはずない。人を捨ててまでも守るものがないあなたに」

声を荒げた悠名に、陽名は冷めた声で吐き捨てる。
それでも、悠名は食い下がった。

「違う。捨て切れていない。幸村に恋するあなたは本当に可愛くて…傘の下で、好きな人にお茶を出すあなたは、ただの女の子だった!あなたの心は、まだ人間でしょう」
 
「知らない、知らないッ
悠名さんのことばかり気にして、
私に気づいてくれない幸村様なんて
死んでしまえばいいのよ!」

「ゆきむらっ」

陽名の体が幸村の臥す方へ動いた瞬間、俺はずっと寝たふりを決め込んでいた主の前へ。
それとほぼ同時に 悠名の手は、簪(かんざし)を持つ陽名の腕を押さえつけていた。

「許さない…幸村を殺したら、絶対に許さない!」

初めて聞く悠名の憎しみを帯びた声に俺も幸村も、目を見開く。

「そう…やっと本性を現したわね」

陽名は、畳に押さえつけられたまま笑い出した。

「あなたはなにも知らない籠の鳥よ。人を殺して胸が痛む?人同士の殺し合いに何の意味が?そんなの決まってる。やりたくてしてるわけじゃない。
これが守る術だからよ。守るために殺すの。今のあなたがそうじゃない。わからないというのなら、やってみればいいわ。さあ私を殺しなさい。今すぐに」

「ちがう…ちがう、ちがう!そんなこと、絶対に間違ってる!」

聞きたくないと耳を塞いで、悠名が泣きじゃくる。
 
「あははははは何を泣いてるのよ。あなたが笑っているとき私は泣いていた。今度は逆よ。あなたが泣いているとき私が笑うのよ!」
「うぅ…っひっく…」

陽名から離れて、悠名はぐしゃぐしゃの顔を袖で拭った。
陽名は 冷めた目でそれを見つめていたが静かに立ち上がり、障子に手をかけ、呟く。

「もう、会うこともないでしょう。さよなら、悠名さん」

俺に向き直り、無言でもう此処にいる必要がないことを示した彼女に、頷いて立ち上がる。

「陽名殿…」

体を起こした幸村の声に、陽名はびくりと肩を震わせた。


幸村には一度も目を合わせないまま御辞儀をして、陽名は悠名を見る。


「どうして……私は、あなたと こんなにも違うの…」


悲しみを宿したその目には、自分とは違う、「幸せな少女」が映っていた。



* * *



 
「本当はね、全部解決してから言おうと思ってたんだ」

在るべき場所へ戻った陽名がいなくなったそこは、静かに時を刻んでいく。

「うそ。佐助、嘘つく気だったでしょ」
「うわ…言うね。悠名のくせに」

沈黙を破った俺に、悠名の拗ねた声。
吹っ切れたような顔をしている悠名に、俺も旦那も少しだけほっとした。

「私、知らないうちにあの子のこと傷つけてた。あの子に言われてやっと気づいた。佐助にも幸村にも…酷いこと言ってごめんなさい。私は、何も知らなかったんだね。キレイゴトじゃ済まないこの世界のこと…私はただ、平和な国に甘えてただけなんだ」

「キレイゴト、それは結構でござるな」
「願いでもしなきゃ、この世界はキタナイままでしょ」

その答えが意外だったのか。
そもそも期待などしていなかったのかもしれない。
俺と旦那を交互に見つめ返す悠名はポカンと口を開けたまま瞬きを繰り返した。

それに、逆を言えばあの子だって自分の手が汚れていくのをこの国のせいにしてる。
「汚い世界」に甘えてることになるんじゃないの。

俯く悠名は、また鼻を啜る。
思えば、この所悠名を泣かせてばかりだ。
俺のせいでもあるし…
やっぱり、悠名の泣き顔は、できればもう見たくないな。

「このまま、お別れしていいの。悠名は、本当は他に言いたいことがあったんじゃないの」

俺の言葉に、幸村が頷く。

「悠名の言葉なら、きっと陽名殿に届くはずでござる」

本当は、この人のことも心配の種だったんですけどね。
お仕置きは後にするとして、今は彼女を「救わなければ」。

それは多分、悠名にしかできないことなんだ。
血にまみれた俺たちじゃ、本当の意味で彼女を救えるような言葉は言ってあげられないと思うから。


「うん…そうだね」


頷いた悠名に、主が微笑む。



長い夜が、漸く終わって。
山際からはもう陽が顔を出していた。
 
 
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