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Yu u ka i i chi re n
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「どう、気分は。目眩とかする?気持ち悪くない?」
「…佐助……」
悠名が目を覚ましたのは、夜も更けた頃だった。
覚束ないように呆けていた顔が、一気に青ざめていく。
今までのことを全て思い出したらしい。
「幸村は!?幸村は大丈夫なの?」
ガバッと起き上がり、悠名はそう聞いてくる。
「大丈夫。暫くは寝ててもらうけど…心配ないよ」
「よかった…」
ふう、と溜息をつく悠名。
「あの、それはそうと、私いきなり姫様とか言われて…状況がわからないんだけど。どうなってるの?」
俺も一先ずは安心した。
思ったより元気そうで良かった。
「今の状況を考えたお館様の計らいだよ。まぁ、前から決めてたみたいだけど」
「信玄様、私を疑ってないのかな。幸村があんなことになったのに」
悠名は肌掛けをぎゅっと握りしめる。
「悠名にそんなこと出来るなら、今までだっていくらでも機会はあったでしょ」
悠名を安心させるように、俺は俯く顔を上げさせて頬を軽く抓ってやった。
「それに、そーゆうこと出来る子じゃないってみんな思ってるよ。悠名、正直だもん。嘘だってすぐバレるしね。ああそうだ、煮干し、勝手に持っていったらダメでしょう。あれ結構高いんだからね」
それから摘んだ右の頬を横に伸ばす。
「ば……ばれてたんだ」
「兎に角今日はもう休みな。明日、旦那のとこ連れてってあげるから」
「うん…」
よしよし、
頭を撫でる俺に、今日は子供扱いするなとは言わなかった。
「あの、ね…それと…あの子は…どうしてる?」
「あの子?」
「陽名ちゃん…幸村があんなことになって、本当にショックだと思うし」
そう聞いてくる彼女の顔は、何も知らないそれではなかった。
多分、何かしら気づいているのだろう。
「うん。大丈夫。もうすぐ会えるよ」
「もうすぐ?」
「そうしたら、あの子を連れてくるから」
「そっ…か」
もうすぐ、と言い聞かせるように彼女は呟く。
本当のことを知ったら、この子はどうするのだろう。
「私、力になるどころか…」
みんなに迷惑かけちゃってるね。
悠名は途中で口を噤んだ。
相当参ってるなぁコレは。
また余計なこと考えてるでしょ。
本当にこの子は…
自分の心配より、他人の心配で頭をいっぱいにするんだから。
「あのさ。悠名に頼みがあるんだけど」
そう言って俺は綻びた羽織りを脱いで、悠名の前に差し出す。
「これ、縫っといてくれない?」
大丈夫だよ、悠名。
俺も旦那も。お館様も。
君が笑ってくれるだけで、それだけでいいんだから。
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11'05/13 再録
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