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Yu u ka i i chi re n

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「悠名は城に戻りな。このまま悠名を捉えて尋問する形を取らないと、ここは収まらない」

あとは彼奴等より先に彼女を見つけなきゃ、こっちの計画も狂う。

「参りましょう。姫様」
「…っ」

柏葉屋で元々住み込みで働いているとして、今まで見張ってもらっていた女中に言付け、悠名を頼む。
狭い肩を抱かれ、歩き出せば 周囲の視線が一気に集中した。

囁き合う、影。
幸村が倒れたのだから当然だけど、気分は最悪だ。

何も知らない人からの おぞましいものを見るような目を一心に浴びている悠名のことは心配だけど。
今俺がすべきことは別のことだから。

遅れて到着した部下に幸村を頼み、俺は その場を離れた。



* * *
 



「バカな子。いい気味。あなたも、本当にバカな人…」


彼女―― 陽名 は、俺を待っていたようだった。


「あの毒はね、一瞬で…楽になれるようにしたのよ」


水面に映るのは、緋色に染まる夕暮れ空。
美しいそこは、まるで彼岸のようだった。


「それなのに幸村様、あんなに苦しんで…どうしてかしら」


小刀を手に、彼女は口元を歪めて笑う。


あの子は、彼女の笑顔が素敵だと言っていた。
仲良くなりたい。と言っていた。

主を見る、焦がれた瞳は とても愛らしいと、自分だって思っていた。

けれど それも、もう…



「ねえ、あなたは私が憎いでしょう」



彼女はそう呟き、また笑う。



「くくっ……あはは、あはははは!」



引きつった甲高い声が耳を割くようだった。



「私を…殺しに来たのでしょう?」



妖しく笑うその笑みは、人を棄てたものの顔だった。
それなのに、零れる涙は 確かに彼女からのものだった。




そのまま狂って、「人」を棄てて…
逃げるのか。

一人だけ楽になろうというのか。



「言いたいことはそれだけ?」


 
ふざけるなよ。

自分だけが辛いと思うな。
誰かを傷付ければ、それ相応の対価を支払わなければならない。

奪えば奪うほど失うのだ。
確かにあったはずの、人としての心を。

想い人を手にかけて修羅になろうというのなら、今すぐ 涙など 止めてしまえ。

 
「今、君を始末しないのは旦那の命令だからだよ。…それ以外に俺が君を殺さない理由はない」





まだ君を、彼岸を渡らせるわけには、
いかないんだよ。




 
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