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Yu u ka i i chi re n

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――いつもいる猫ちゃんがいなくて遊べなかったのはガッカリだったけど…

もうこれからも、その猫とは遊べなくなっちゃったなんて、
知ったら悠名、悲しむだろうなぁ。



* * *




若葉色の葉が敷き詰められた土の上。
木の棒で土を抉るその動きに合わせて、蹲った少女の背が小さく揺れる。

「ねえそれ、何のいじめ?趣味悪いね」

バレているとも知らないで毎回台所から煮干しをくすねていた犯人・悠名お気に入りの白猫が横たわるのは大銀杏の幹。
 
真っ白だったその毛は、今は流れ出た血で赤黒く染まっている。

「あなたは…」

俺の声に、彼女は表情の無い顔で振り向いた。

「どうも」
「幸村様の、…お友達」
「君、ちょっとズレてんね」

すう、と俺を見据えるその目から、真っ黒い闇が見える。
幸村に見せる顔とは別人だ。

「何か御用でしょうか。獣でも骸は骸。葬ることが悪趣味ですか」

腿に手を伸ばした彼女より早く、仕込まれた細長い獲物を取り上げる。
彼女は驚いたように目を見開いた。

「話がしたいだけだよ。コレはちょっと勘弁してね。俺様痛いの嫌いだし」

護身用にしては使い込まれたそれを返してやれば、彼女は目を伏せて、また土へ棒を突き立てる。
程良い深さのその穴は、小さな獣を弔う為に。
犠牲となった彼への、せめてもの償いか。

「用、っていうか 君に一つ忠告しに来ただけ」

今日は彼女の反応を見られただけでいい。
旦那の読みも、強ち外れじゃなかったわけだ。

「君の置かれてる状況がどうであれ、守り方が違うんじゃない?陽名さん」

いくら俺でもこういうの、あんまり気が進まないんだけど…
旦那の命令だし、悠名のこともあるし。
 
身動きがとれないからと言っても、他にやり方は無いわけ。
この子も強情そうだし、俺じゃ根本的な解決にはならなそうだけど、一応。

「何の話でしょう」

ただ相手は外面が良いだけ厄介。
好き勝手やってる割に、ガードも堅い。
此方から仕掛けるしかないのかもしれない。

「悠名は君を露ほども疑ってないけど。何とも思わないわけ」
「悠名?…あぁ、あの世間知らずの子」

ゆっくり土を被せる。
抑揚のないその声は、たった一言で彼女をそう表した。

「この国を知らないだけだよ。君だってあの子の住む国を知らないでしょ。悪い子じゃないんだ。仲良くしてあげてよ」
「ずっと守られて生きてきた、そんな子の…何を知れというの」

何者にも侵されない、彼女の目は孤独のそれだ。

「君と話してると、何か世界の終わりが近い話でもしてるような気分になるよ」
「そう…」
「世の中、悲観視し過ぎじゃない、君」

「あなたは違うのですか」

忍びの癖に、と彼女の背は云う。
 
元を絶っても、彼女は何も変わらないかもしれない。
彼女を縛るものが、彼女が守りたいものなのだから。
守るべきものの為にあるべき感情さえ、不必要になるほどに。

彼女は、自分とよく似ている。

「忠告はした」

でも。

「君のやり方次第で、俺もそれなりに動かなきゃいけない」

俺は、守るものを死ぬ理由にはしない。
似て非なるそれは対極にあって、だからこそ間違えのないように、慎重に。
でないと俺に覚悟の違いを諭してくれたその人を護れないから。

「私を、殺しますか」

立ち上がり、彼女は俺を一瞥しただけですぐに踵を返す。
挑発に似たそれは俺への宣戦布告か、いや――

「それが必要だと判断したら、ね」

彼女が、これで死ねる理由が出来たと思っているのなら。

「でも俺は、「幸村」を守るためにいるから」

今の 君の願い は絶対にかなわないよ。






正直君のことはどうでもいいんだけど

君が死ぬと泣く人が、確実に二人いるからね。







小さな墓の上。
大銀杏が 風に揺れた。


 
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