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Yu u ka i i chi re n
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「お帰りなさい悠名殿」
「おかえりー。お疲れ様、悠名」
疲れきった顔で幸村が私を出迎える。
彼とは対照的に、傍らの忍びは艶々の笑顔。
一体、昼間家臣の人たちとどんな話をしていたんだろう。
「初仕事はどうだったでござるか」
「大変だったけど楽しいよ。店のおばさんはいい人だし」
「それは良かった」
「ちょっと噂好きだけど」
私に、この二人との関係についてやたら勘ぐってくるしね。
何かあったらお店に来る人みんなに喋っちゃいそうなくらい。
「ほら悠名、手洗ってきな」
「はいはい」
佐助の言いつけ通り手を洗ってうがいをした後は縁側に戻り、寝転がる幸村を覗く。
幸村は私の携帯でアプリゲームを起動させていた。
ハムスターがチョロチョロ動いて時間内にチーズを食べ尽くさせる単純なゲームなんだけど最近のお気に入りらしい。
そう言えば、幸村よく携帯で遊んでるみたいだけど携帯の電池、切れないのかなぁ。
変なの。まぁ、今の状態じゃ壊れてるも同然だけど。
ていうか、そんな格好でやってたら目悪くするよ幸村…
佐助が注意するだろうからうるさく言わないけど。
それから 幸村から少し離れた柱に背を預けて、畳に両足を投げ出して長座。
行儀悪く脹ら脛を揉んでいるところに、佐助がお茶を乗せたお盆を持ってきてくれた。
「あ、佐助お茶有難う!丁度良いや、これみんなで食べよー。おばさんから大福もらったんだ」
「ちょっと悠名。足、行儀悪い」
投げ出した足が目に付いたらしい。
佐助はお盆を床に置いて 三人分のお茶を順に差し出しながら言った。
「疲れちゃったのー別にいいじゃん」
言い返し。むう、と口を尖らせる。
男がお母さんみたいなこと言わないでよね。
つい突っかかっちゃうのが自分でも子供だと思うけど。
「揉んであげようか?ほら、貸して」
「ん。ありがと。お母さん」
「お母さん違うから…」
私の言葉に、佐助からは はぁ、と小さな溜め息が返ってきた。
それから、腰を下ろした佐助が両足のマッサージをしてくれる。
「あー…気持ちいーくるしゅうないぞー」
「悠名お館様化してるよ」
佐助、マッサージうまいな。整体師みたい。
「今日は陽名ちゃんいなくて残念だったけど…明日こそ仲良くなりたいなぁ」
お茶を飲みながら、程良いマッサージに目を閉じる。
佐助の手が一瞬止まって、また再開された。
陽名ちゃんの名前に反応したのかな?
ふふ、またからかってやろ。
「明日もばいとでござるか。神社で縁日もあるようだし…某も明日こそは悠名の勇姿を見に行くでござる。陽名殿にも挨拶しに行かねば」
幸村も大福を頬張りながら私に便乗してきた。
今日の大事な話とやらが相当堪(こた)えたらしい。
仕返しのつもりかな。
「悠名、明日はその子来るんだ?」
食いついてきた佐助に私はニヤリと笑って頷く。
「来るよ。佐助もおいでよ」
「行けたらね。それより、今日は何か変わったことなかった?」
「んー?いつもいる猫ちゃんがいなくて遊べなかったのはガッカリだったけど…あとは悪ガキ2人に失礼なこと言われたくらいかな。いつの時代も子供ってのはマセてるもんだねぇ」
ババ臭いことを言いながら私はまたお茶を啜った。
お茶も大福も美味い。
マッサージも気持ち良いし、お姫様になった気分。
「む…どうかしたのか?佐助」
すっかり夢心地の私。
幸村が何か聞いてるみたいだけど。
…佐助が何だって?
「何でもないよ旦那。ま、悠名に怪我がないならいいよ」
うーん…今はどうでもいいや…
「悠名はそそっかしいからね。すっ転んで饅頭蒸してるとこに顔突っ込んだりしないとも限らないでしょ」
ぱち、
目を見開けば「フン、」と小馬鹿にしたような佐助の顔。
マッサージは終わりのようだ。
私としてはもうちょっとやってもらいたかったけど…
「陽名ちゃん、の迷惑にならないようにね?くれぐれも」
…言ったなアーミー男。
私、これでも有言実行派なんだから。
いつかギャフンって言わせてやる。
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11'05/13 再録
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