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Yu u ka i i chi re n

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「あらぁやだわぁ他にも誰かいるのかしら?」
「いいいいませんっ!それに幸村には相手がいるし…佐助だって陽名ちゃんが…」

おばさんのニヤリと笑うその顔に、それは誤解だと必要以上に首を振る。

「あら。陽名さん?」

私が陽名ちゃんの名前を出すと、おばさんは意外そうな顔で聞き返した。
 
「佐助の奴は陽名ちゃん見てポケーッと色惚けてましたよ」
「あらそう?おばさんてっきり…」

ムキになる私が可笑しいのかずっと笑っているおばさんに、それはない!ありえない!と強く主張。
こんなにムキになる必要はない気もするのに…何でだろ。

「佐助、私みたいなのより陽名ちゃんみたいな子が好きだと思いますよ」

そうそう、私、まだ佐助の監視下だし。
だいたい佐助は私のこと子供扱いするし絶対大人っぽくて頭の良さそうな子が好きなはず。
面白がってるだけなんだろうけど変な冗談やめてよ…もう。

心底嫌な顔を作る私におばさんは困ったように笑った。
それから、「でもね、」と続ける。

「あのお兄さん、悠名さんのことばかり見てたのよ。お店に入らないで、あそこのイチョウの木の下で、幸村様とお団子食べてる悠名さんずっと見てるから…おばさんが入るように言ったの。返って悪いことしちゃったのかしら」

「えっ、そうだったんですか」

おばさんが佐助に声かけてくれたんだ。
いきなり現れて陽名ちゃん驚かせて何やってるんだと思ってたけど…

「なんだ、一人じゃ入り難かったんだ。あはは、可愛い」
 
「悠名さんは、どこか垢抜けているから、そこに惹かれるのかしらね…ほら、子供たちもよく懐いてたし」
「そ、そうかなぁ」

惹かれる…って、何言ってるのおばさん。
それじゃ佐助が私に気があるみたいに聞こえるんだけど。
監視、は言い訳で、ほんとに気があるのかな…いやそんなアホな。

「何も無理に背伸びする必要はないんじゃない?悠名さんの無邪気なところだって素敵なことよ」

ぱたぱた顔を扇ぐ私に、おばさんはまた微笑んだ。

「きっと、陽名さんとは一味違う看板娘になってくれると思うわ」



夕日が、沈んでいく。

おばさんがお土産に持たせてくれた大福を受け取り、私は迷ったけど口を開いた。

「あの、おばさん」
「ん?なぁに?」

「私、ここにいる間…お店の仕事が終わったこの時間は、おばさんのことお母さんみたいに思ってもいいですか?」

キョトンとしたおばさんに、やっぱり子供っぽかったかな、と後悔した。
熱くなった顔をそのままに俯く。

おばさんは驚いたように目を見開いていたけれど、それから ふっと口元を緩めてゆっくり頷いてくれた。

「もちろん」

それから 私の肩を、ぽんと叩く。

 
「悠名さんのお母様の代わりにはなれないでしょうけど おばさんで良かったら何でも相談に乗るわよ」

夕焼け空を親子スズメが連れ立って舞う。
巣に帰るのだろう。

「仕事も、それから恋もね」

私も、お家に帰らなきゃ。
信玄様と、二人が待っていてくれる家に。

「ありがと、おばさん」

温かい。
肩から伝わる体温に懐かしい温もりを思い出す。

「で…実際どうなの。他に好きな人がいるなんて嘯いちゃって…本当はどっちが本命なのかしら。当ててあげよっか」
「だからほんとにあの二人はタダの友達だってばぁ!」

おばさんの取り調べは、そう簡単には終わりそうもないけれど。

知っているものとは少し違う、それでも確かな優しい温もりに、私は ぐすっと鼻を啜ったのだった。
 
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