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Yu u ka i i chi re n
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「わたくし、今日からバイトに行ってきます」
「ばいと、とは?」
「お勤めのことだよ。働かざる者、食うべからず!母の遺言だからね」
「ちょっ、悠名、お母さん生きてるって言ってなかったっけ」
* * *信玄様との予定していた出稽古が中止になり、昼までぼーっとしていなければならなくなった幸村が退屈そうに私の傍らに寝転がる。
意外に背丈がある幸村にちょっと驚いた。
こうしていると幸村も男の人なんだなぁ。
いつもは信玄様の隣で「虎の子」としていて、凛々しいんだけど何処か可愛いイメージしかなくて…だから何というか新鮮だと思う。
「しかし、突然でござるな。それくらい、某にも相談してくだされば…」
「うん。相談しようと思ってたんだけどね、でもこの前教えてくれたお店だからさ、探せたのは幸村のおかげなんだよ」
そこまで言った私に、弾かれるように顔を上げた佐助。
すぐにピンときた私は、ニヤリと口を歪ませる。
ふうん、なる程…陽名ちゃんが気になるんだな。
笑いかければそっぽを向かれてしまった。
もう、近所の悪ガキみたいなことして。
可愛いな、男の子!
ニヤニヤする私の顔に眉を顰めた佐助は納屋の方へ引っ込んで行ってしまった。
なんだつまんない。もっとからかってやろうと思ったのに。
「して、どの店でござるか」
風呂敷の端と端を結んでバッグを作る私の隣で、幸村がそわそわと落ち着き無く聞いてくる。
気になるらしい… 仔犬のようなそれに頭を撫でてあげたくなる。
佐助もこのくらい可愛げあればいいのに。
「いつものお団子屋さんだよ。昨日聞いたら、明日からよろしくって言ってもらえたから今日初出勤なんだ」
「おお、柏葉屋(かしわや)でござるな。それは誠でござるか、では某も…」
絆創膏の入った小さな布袋と、小銭(幸村からもらった)を風呂敷バッグへ。
それから、いつものように台所からパクった煮干し。
佐助にはバレてそうだけどコッソリその包みも持った。
立ち上がった私と幸村が廊下へ出ようとしたら、腕を組んだ佐助が柱の脇で仁王立ちしていた。
「旦那、どこ行く気」
確かにその顔はにっこりしているのに、どういうわけか目が笑っていない。
「某……暫し庭まで散歩へ…」
私の影に隠れるようにして佐助の視線から逃れるように目を泳がせた幸村。
「へえ、お財布持って?」
「いや庭の散歩は嘘でござる、悠名の勇姿を一目見に…」
「一目?じゃあすぐ帰ってくるよね?5分くらいで」
佐助のギン、という眼光。
ビームでも出てくるんじゃないだろうか…いくら忍者でも流石にそれはないか。
しかし威力は十分だったようで。
「それでは足らぬぅ…団子を食べて茶を飲んで…な、ならば佐助も一緒に、」
「 ゆきむら 」
名前を呼ばれて、私の着物の袖を引っ張っているその手がビクッと硬直した。
「それなら今日じゃなくてもいいんじゃない?それに悠名はまだ俺様の監視下なんだから、いつでも見に行けるでしょ」
しどろもどろになって佐助の顔色を窺う幸村を見ていると これじゃ主従逆転してないか?ともとれる。
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