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Yu u ka i i chi re n
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ああ、向こうの世界のアイテムが初めて役に立った瞬間だよ。
悠名さん涙出そう。
「怪我したらこれ巻いて止血するんだよ。それから、バイキンとか防ぐの」
「悠名は医者いらずだねえ」
二人が私を感心したように見ている間、はっとしたように女の子がお店に入っていき、すぐにまた戻ってきた。
「あの…よろしければお持ちください。桜あんのお饅頭です」
「おお陽名殿、これは忝い」
幸村、この店員さんと知り合いだったんだ…
女の子は私の手元を見てから幸村に向き直り、饅頭の入った包みを手渡す。
私が怪我をしたから気を遣ってくれたんだろうな。
いい子だなぁ。
幸村の顔を直視しないようにしているその子の頬はほんのり染まっている。
幸村は気づいてないと思うけど。恋愛疎そうだし。
「貰っちゃっていいの?」
私が聞くとその子は控え目な笑顔でこくりと頷く。
「皆さんで召し上がってください」
「ありがと」
そういえばさっきから佐助がずっとその子を見てるみたいだけど。
これは三角関係勃発、波乱の予感…?
まぁ私的見解では幸村が気づかないままその子の恋が風化して、佐助は佐助で途中で飽きて戦線離脱する、に1票…ってまた妄想に走ってどうする私。
お店を出て、武田の屋敷まで三人並んで歩く。
砂利道を過ぎて、草の生い茂った道を下り、小枝でチャンバラごっこして遊んでる子供たちに手を振って…
赤・紫・橙のグラデーションを作った空が綺麗だ。
高いビルとか、マンションがない世界って、こんなにも広く感じるんだなぁ。
「それにしても…可愛い子だったねえ、さっきの子」
お饅頭をくれた女の子を思い浮かべ、私は気分ホクホクで歩いていた。
仄かに香った香りも女の子らしくて…なんかいいなぁ。
「悠名も負けておらぬよ」
私の言葉に幸村がそう言った。
また無意識に口説いてるし…眼帯彼氏に言いつけてやろうか。
「じゃあ…幸村はどっちなの」
「どっちとは?」
「どっちのほうが幸村の好み?あ…眼帯しようか?」
「かっ…からかわないでくだされっ」
「政宗殿」をわざと意識させれば幸村は泣きそうな顔で抗議してくる。
いや幸村くん、それ逆効果なんだけど。
「あはは、旦那ホント遊ばれてるし」
「ぬぅ…ならば佐助はどうなのだ」
隣でニヤニヤ笑う佐助にまで言われ、幸村は溜まりかねたようで言い返した。
「は………え?」
「悠名と陽名殿、どちらがたいぷなのだ」
自分に振られることは考えていなかったらしい。
「……」
押し黙る佐助の顔が、下から上に一気に赤くなっていくのを 私と幸村は口を開けたまま眺めた。
それはもう、鉄板の上で焼かれるエビが真っ赤になっていくように。
「ゆ、茹でたタコのようでござる」
お祭りの屋台のリンゴ飴のように。
「さすけ、超可愛い……!」
「っ、も……何なの二人ホント!なんかすっごい嫌だ!」
赤く赤く、染まっていたのだ。
「ねえねえどっちなの佐助ー」
「某には話してくれても良いではないか佐助ー」
「絶っっ対嫌だ!」
幸村と一緒になって佐助を追いまわしながら屋敷に帰った私はまだ、知らなかった。
既にこの時から背後に忍び寄る、見えない影があることに。
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お友達になろう!編が漸く終了。
長くてすみません。
主人公さん最初幸村とばっかりいちゃついててすいません。
(幸村が愛されてさえいればそれでいいんです)
それと佐助も幸村とばっかりで以下略。
(幸村が以下略)←
11'05/13 再録
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