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「あのね幸村」

半歩前を歩く彼に、小さく呟いた。
幸村が此方を向く。

「私、どうしたらいいのかわからないの」

ここでどうしたいのかなんて、自分で決めなきゃいけないのに。


お参りをして、石段に座る。

来たときはぼーっとしていて気付かなかったけれど、視線を動かせば甘味処らしきお店があった。
紫色の暖簾に、赤い傘が可愛い。
抹茶とかも飲めるのかな。御洒落。

「お参りをした後ここで食べていく人も多いのでござるよ」
「…そうなんだ……」

お団子かな。いいにおいがする。
学校の近くのお店で、アイスとかあんみつとか、先輩とよく一緒に食べたなぁ。

涙腺が潤む。
先輩に会いたい…今、どうしてるんだろう。
 
「何をしたら良いかわからぬときこそ、立ち止まっていても始まりませぬ」

知らぬ間に幸村の口調が戻っていた。

「悠名殿、」

すくっと立ち上がり、私に手を差し出す。

「団子はお好きか?」

眩しい笑顔に一瞬どきりとする。
戸惑った手は やがて彼の手へと重なった。



* * *




「うわ、何この団子うま!もっちり!」
「このしっとりとした餡がたまらなく美味でござるな」

だんだんと山へ降りていく陽が眩しい。
真っ赤な傘の中で、幸村と二人並んで団子を食べる。
お茶も美味しいし、ほっとする。

「でも、本当に良かったでござる。悠名、やっと笑った」
「幸村……」

にこりと笑う幸村に、私はお茶を飲むふりをしながら ありがと。と心の中でお礼を言った。
照れくさそうに笑った幸村が、草餅を頬張る。

「みたらし団子がこの店一番のおすすめでござるよ。饅頭なら桜あんの…」

何個目だかわからないけど、本当に良く食べるなぁ。


「二人とも、なんかすっごい仲良くなってない?」

舌鼓を打つ私たちの後ろから不意に聞こえた声に振り返る。

「あ、佐助」

そこには見知った男が頬杖をついて座っていた。

お団子を持ってきてくれたお店の女の子がきゃっと小さく悲鳴を上げる。
恐らく、いきなり現れたんだろう。
民間人脅かすなよハ●トリくん…(※知らない子は昭和生まれのお姉さんかお母さんに聞きましょう)

「おう佐助。一緒にどうだ、お主の作る団子とはまた違った風味で…」
「遠慮しとく」

幸村が団子を口元に差し出したが、佐助は ふい、と顔を逸らした。
む、と口をとがらせた幸村に苦笑しつつ、佐助にお茶を差し出す。

首だけでお礼を言って、ずず、と啜った忍びに口元が緩んだ。
素直じゃないんだか、素直なんだか…

「旦那、今日何しにきたか分かってる?」

でも、幸村に対してちょっと冷たい佐助っていうのも珍しい光景だ。
拗ねているようにも見える。

「でぇとでござろ?」
「…わかってないっ」
 
あ、わかった。
私に幸村取られて悔しいのかな。
仕方ない。仲間に入れてあげよう。
お茶だけじゃかわいそうだし。
私っていい奴!

「ひとくち。食べる?」
「え……」

まだ食べてないほうの三色団子をお皿ごと持ち上げて、私は腰から上だけを後ろに向けて佐助に差し出した。

「いや俺は……えーと…」
「団子好きじゃないの?」

キョトンとしてから、なんか焦りだした佐助に、だんだん手が疲れてくる。

「い…いらないなら幸村にあげるから」

けれど、私の首元のネックレスを見た瞬間、一瞬だけ笑ったような気がして 引っ込めようとした手が固まった。
な…なんか、今笑っ…た…よね?

「っ……た、食べるよ、1コだけ」

そっぽを向いたまま、佐助がそう言う。
幸村が佐助には分からないように笑いかけてくる。

「じゃ、はい、あーん」

私は、なんだかそれがすごく嬉しくて、ここに来て、初めて楽しいと思えた気がした。
 
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