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Yu u ka i i chi re n
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それってつまり…
「仲良くなりたいってこと?」
私の言葉に幸村さんが短く頷く。
「出会ったのが戦場でなければ、と思うと少しだけ残念でござる。あのとき悠名殿を怖がらせていたのは他ならぬ自分。某のような血にまみれた者は、悠名殿と同じようにはいきませぬが…某はそれでも、」
ああそうか。
「幸村さんは、私がこの世界の全てに怯えてること、わかってるんですね」
私の心は、彼にも筒抜けなのだ。
「全てでなくていいから、少しずつ話してくれたら嬉しい。悠名が何者でも、俺たちはもう驚かない」
風が強くなる。
「だから、俺を怖がらないでほしい」
私は、まっすぐ見つめてくる「幸村」から目を逸らせなくなっていた。
* * *ざり、ざり、ざり。
砂利道を歩く。
この先に、お参りができる神社があるらしい。
「私は、昨日、初めて人が殺されるところを見たの」
ざり、ざり、
「死にたくないと助けを求める人の声だとか、狂ってしまった人の笑い声が…今でも…」
耳にこびり付いて離れないのだ。
「悠名の国に、戦は無いのだな。それは立派な、良い国だ…」
身を護るように腕を抱く私に、そう言って幸村が目を細める。
「今は、だけどね。昔はあったよ。勝ったときも負けた時も。沢山の人が死んで悲しんだから、もうどこの国とも戦いませんっていう決まり事を作ったの」
私は自分が褒められたわけでもないのに口元を上げた。
「そんなことが…出来るのでござろうか」
「幸村は、幸村が信じた道を行けばいいんだよ。私は何も言えないし、言っちゃいけないから」
私のしたことが未来に深く影響するのなら、残してはいけない。
例えば私でなくても誰かの存在だったり、今の日本にあるべきだったものが生まれないことにもつながってしまうから。
ドラマの中だけで知ってる知識が正しいかどうかはわからないけど。
武田が滅んだことは事実。
その後の家臣たちがどうなったとか、そんなこと…絶対に言えるわけがない。
「私の国も、平和になる前はここと同じ。私はその時代に生きていないから知らなかっただけ」
平原で殺し合う、あそこは皆、狂っていた…
赤黒い血のついた手でまた武器を握って、体を草の上に転がして、肉塊となった人を踏み潰して――
信玄様も幸村も、佐助も。
みんな同じことをして誰かを悲しませているのだ。
だけど、それでも私は。
「人を殺すことがいけないなんて、酷いなんて、私が言える立場じゃない…」
私は、ただ繰り返される毎日を安穏と生きていた。
たまに学校をサボって、ずっと実らない恋をして、たまにはいい子のふりをして…
つらいことは何度かあったけど、ここに生きる人たちほどじゃない。
この時代の人たちはどうしてこんなに強くいられるのだろう。
私よりも小さな子供たちが戦を知っていて、男の子ならば死と隣り合わせの場所に立たされなければならなくて。
それなのに。
私は、ここで強く在れるのかな。
強くなれるのかな。
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