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Yu u ka i i chi re n
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御昼前だからか、町には人が増えてかなりにぎわってきた。
「しかし、こうして明るい場所で悠名殿と話していると、お館様の言うことも尤もでござる」
果物や野菜が売っている、八百屋さんみたいな店、さっきの装飾品みたいな店…御菓子が売っている店。
「信玄様?何か言ってたんですか?」
いろいろ回って、少し疲れた。
「悠名殿は、とても綺麗な目をしておられる、と。某も改めてそう思いまする」
「そ、そんな大層なもんじゃないと思うけど」
いきなり何口説き始めているんだこの、似非甥っ子!
私さっきの、まだ許したわけじゃないんだからね…
ドキドキしながら首を振る。
「戦いに身を置く者にとって、目映く映るもの。だからこそ某も悠名殿の力になりたいのでござるよ」
幸村さんはそう言って笑った。
それから じゃれてきた町の子供たちと少し戯れて、すぐ私のところに戻ってくる。
本当に子供みたいな人だ。
いくつか知らないけど、年相応に見られたこと無いんじゃないかな。
伊達さんもこういう無邪気なところが好きなんだろうか。
…シュウドウって、たしかこの時代結構お盛んだったんじゃなかったっけ?
わあ、………ご愁傷様です幸村さん。
「時に悠名殿」
「っひゃい!何でしょう?」
…いかんいかん。趣味の悪いモウソウに走ってしまった。
木陰に入って休みながら、私は木の幹に寄りかかると、少し離れた幸村さんと向かい合う形になった。
「昨夜はあまり休まれなかった様子。佐助と何か話していたのでござるか」
また佐助さんですか…
私あの人苦手なんだよなぁ。
刀突き付けられたし…
「いえ、何も。佐助さん何か言ってました?」
「否、…それなら良いのでござる」
「ちょっと何で笑うの…気になる」
「ならば佐助に聞いてみてくだされ」
う…絶対嫌。
笑顔で何か世界が終るようなこと言われる気がする。
「それから悠名殿、ずっと言おうと思っていたでござるが…」
「うん。何?」
「某はお館様に仕える身。敬語など、必要ないでござるよ」
幸村さんの鉢巻が追い風に舞う。
私は暫く、目を瞬(しばたた)かせていた。
「でも…佐助さんのご主人様なんでしょう。佐助さんも幸村さんに忠実だし…やっぱり偉い人だと思うけど」
「佐助のことは某が誰よりも信頼している。だからあのとき悠名殿を任せられた。…いや、それはともかく、その、何と申しましょうか……某は悠名殿ともう少し自然に話したいのでござる」
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