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Yu u ka i i chi re n

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すれ違う度に 老若男女から挨拶されている幸村さんに、甲斐(今の山梨だったかな)の人みんなから信頼されてるのだと感じた。

でもだからこそ、わからない。

信玄様も幸村さんも、素性の知れない私にどうしてこんなに良くしてくれるんだろう。

「あの、今更なんですけど」
「何でござろう」
「どうして私に良くしてくれるんですか」
「悠名殿…」

露店の前で立ち止まる。
俯いた私に、幸村さんが口を開きかけて、名前だけを呼んだ。
それから何も言わず、私の言葉を待つ。

「あの場に、居合わせたのは偶然です。幸村さんが責任を感じることはないはずです。私を住まわせても信玄様にとって何のメリットもない…」

綺麗な石が嵌めこまれた装飾品を眺めながらも、私の目は空(くう)を見つめていた。
 
「悠名殿、やはり先ほど言いかけたのは…」
「今日、屋敷を出るつもりでした」

声が震える。

「私、別に強くないですけど。周りからは頑張り屋って言われてるくらいなんで」

違う。
本当は心細くて堪らない。
それでも、自分は、ここにいるべきじゃないから。

「だから大丈夫。きっと、一人でやっていけます」
「………」

自分に言い聞かせるように言った私に、幸村さんは何も言わなかった。

「悠名殿。店主がまけてくれた。お近づきの印に、受け取ってくだされ」

それから、店主に一声かけて手にしていた装飾品を購入。
笑顔で差し出され、つい受け取ってしまった。
 
どうしよう、と考える暇もなく幸村さんは先へ行ってしまう。
ここは、素直に受け取っておかないと失礼なのかもしれない。

「悠名殿は、とても気丈な方でござるな。某はいつも流されてしまう故」

…そんなことない。
私だって結局は流されてる。
でも、あなたは強いじゃないですか。
仕える人に、あんなに信頼されてるじゃないですか。

過大評価に聞こえる幸村さんの言葉に、拗ねたように唇を噛む。

「不慣れな異国の地で不安も御座いましょう。とても一人にはさせられませぬ。…だが、悠名殿があんまり辛そうでござるから。それ故、某は元々、悠名殿を引き留めるつもりはなかった」
 
笑っているはずなのに、その目は少し寂しそうに見えて、受け取ったそれをぎゅっと握る。

「悠名殿が政宗殿の話す言葉を理解できることを知って、きっと話が合うであろうお二人が羨ましいとも思った……迷惑な話でござるな」
「いえ。そんなことないですけど…もしかして、それで伊達さんを呼んでくれたんですか?」
「いや、今朝は突然、政宗殿が…」

なんだ、違うのか。
それにしてもあの男が伊達政宗…か。
未だに信じられない話だけど、あの眼帯は紛れもなく独眼竜の証だ。
あんなに若くて(顔だけは)格好いいのに奥州筆頭。
…戦国時代ってわからない。

「小十郎殿の様子からして、恐らくまた政(まつりごと)を放り出して来たのでござろう」
 
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