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Yu u ka i i chi re n
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携帯が使えないことに落胆してからというもの、それから話が弾むわけもなく。
食事も喉を通らない私を気遣って、信玄様が 客間で休むよう言ってくれたときはホッとした。
アーミー忍者・佐助の監視下で、が有無を言わさぬ条件だったみたいだけど。
「ねえ、さる……佐助さん」
呼びかけた天井からは何も返ってこなかった。
気を遣ってるのかどうかは知らないけど詳しい話は明日改めて、ということになったから明日質問攻めに遭うのかもしれない。
彼が私をどこの馬の骨かと疑っているのはわかっている。
制服が珍しいみたいだし三人とも私を外国人だと思ってるし。
優しそうだけど信玄様も幸村さんも少なからず怪しいと思ってるはずだ。
…それなのに、良くしていただいて申し訳ないな。
せっかく美味しそうな料理を出してくれたのに、二口ほどしか食べられなかった。
今まで、どんなに辛いことがあってもご飯だけはきちんと食べていたのに。
いつも母さんが、ご飯だけは食べなさいと言ってくれたから。
だから、先輩が落ち込んでるときも母と同じことを言ってご飯を食べさせた。
腹が減っては戦は出来ないでしょう。
って。
「っ……おかあさ…」
ぼろ、仰向けになった私の目からこぼれたそれは目尻を伝って耳へ。
ぬるりとした感触が気持ち悪い。
急に、堰を切ったように涙が溢れた。
母が恋しい。会いたい。
ここはどこなのだろう。
私はどうなるのだろう。
――悠名、
ご飯食べて、はやく元気出せ
そしたら 何だって出来るし
何だって頑張れる。
「っう、ぅう……」
我ながら情けない。
母恋しさに泣くなんて。
だけど、今日は人が死ぬところをあんなにたくさん見てしまって…
本当に怖かったのだ。
常識では考えられないあの光景が恐ろしくて、狂気に満ちたあの人たちが恐ろしくて。
その中で、嬉しそうな顔で対峙する、赤と青。
あれは何だ。
平和な日本に、普通なら考えられない殺戮。
どうして気づかなかったのだろう。
あのとき映画撮影だなんて浅はかなノリで近づかなければ良かったのかもしれない。
けれど、あのまま幸村さんに助けられなかったら 私も本当に死んでいたか、今度こそ暴漢に辱められていたかもしれない…
まるで、あれでは、ここは―――
「戦国時代……」
…有り得ない。
日本のド田舎の奥、偏狭の地へ来てしまっただけかもしれないのに。
だって もしも、ここが昔の日本だとして。
なんていうか武田信玄ってオジサンが、ブイブイ言わした時代にトリップしてしまったとしたら。
あの青い猫型ロボットもびっくりだよ。
最近のマックフルーティーにはタイムマシン機能でもついているんでしょうか。
って………ンなバカな。
でも、バカな私だって知ってる。
お母さんが中井●一が好きで、よく一緒にビデオ見てたし。
武田信玄。伊達政宗。
幸村さんと佐助さんは出てたのかな?
よく覚えてないけど。
信玄様が本当にその「武田信玄」なら、実際にいた歴史上人物だ。
他にも信長とか秀吉とか家康とか、私が知っている武将が、この時代に生きているのだとしたら、間違いない。
時間は永久不変。戻るわけがない。
だから、その法則で言えば私が過去に来てしまったということ。
でも、それだって絶対におかしい。
「ありえないよ…」
無理矢理元気になろうと頑張ったけどそれはなかなか難しいみたいだ。
結局、その夜 私が眠れることはなかった。
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11'05/13 再録
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