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Yu u ka i i chi re n

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一様の藍色の着物を着た女の人たちに体を隅々まで洗われ、薄い桃色の着物を着せられ、案内された部屋は畳のいいにおいがする和室だった。
動かした視線の先には立派な庭園…枯山水だったっけ?



「うーん…」

抓った頬はじんと痛いし、やっぱりこれは夢じゃない。
こんなお屋敷に、どうして私が…ぼーっと考えてみる。

鎧着た三人の暴漢を撃退してから、殺し合いの中心に運悪く飛び出してしまった私が、赤い鎧の人に助けられたことまでは覚えてる。
それから、目が覚めたとき 私は馬の上にいて。
私を抱えていたのは、顔が覆われた男の人。
脅しだけだろうけど、突き付けられた小刀に確かな殺意を感じた。

現に…今も。
 
「だから、どこの患者だって聞かれても…私どこも怪我してないよ」

さっきから話が進まないのだ。

「だから、どこの間者かって聞いてるの、俺は。もう、言葉が通じてるのに通じない南蛮人面倒臭い」
「私…日本人だってば…」

天井裏から聞こえる声にまた溜め息。
猿飛佐助と名乗ったその人との押し問答が途絶えることはない。

「佐助、失礼であろう。客人として招けと申した筈」
「あ、お館様、旦那ぁ。聞いてよもうこの子おつむ相当弱いよー。俺様の話全然通じないのー」

あ、…さっきの人だ。
出で立ちは和装だったけれどすぐに分かった。

(突きつけていた刀を納め、部屋の隅に座った忍者の話からすると)
ここで一番偉い人である「武田さん」らしきオジサンが用意された座布団に腰を下ろす。
その傍らに座る、赤い人。
じ、と見つめてくるオジサンの視線に耐えかねて私は恩人の男の人に話しかけた。

「さ…さっきは、助けてくれてありがとうございました」
「いや某は当然のことをしたまで。礼など不要でござる」
 
アーミー忍者とは違う言葉。
堅苦しいというか。なんというか。
いつの時代の人だよ。

なんだか時代劇みたい。
馬から見た景色は田畑が広がる長閑なところだったけど、どこの田舎だか検討もつかない。
鎧とか刀とか槍とか…馬とか。

ぞくり、背中に寒気が走る。
昼間のあの集団殺戮について、聞いても大丈夫かな。

ここがどこか知らないけど あんな殺戮が普通に起きるようなところなんだろうか。
「あれ」はなんだったのだろうか。

「お館様、こちらがその女子でござる」
「ふむ、その様だな。面妖な着物の女子…と幸村が申した通りの者のようだ」

幸村、というのか。
幸村は「お館様」に私を紹介し、人の良さそうな笑みを浮かべた。

「某が伊達殿との戦いの最中に、あの場に巻き込まれていた所を佐助に頼み、此処へお連れ致した」

じ、と見つめるオジサンの目は酷く私を緊張させる。

「ああ、そう堅くなるな、突然で驚かれたであろう」
「あ、はい…良くしていただいて…お風呂まで、すみません」

けれど、どこか懐かしいような暖かい温かいような、そんな雰囲気のある人だった。
 
この人なら信頼できるような気がしてくるから、不思議だ。

「申し送れた。儂の名は武田信玄」

た、
たけだしんげん!?

相当前だけど大河ドラマになった人じゃん!
確かミ●プルーンのおじさんがその役で…

「お主の名を聞いてもよろしいか」
「な、名前ですかっ…えっと、藤堂悠名です」
「ふむ」

いや、ふむ。じゃなくて…同姓同名ですか?
なんかイメージよりずっとシブいおじ様だけど。

あ、ていうかその手に持ってるのは…

「私の携帯!」
「け、たい?あぁ、やはりこの小箱はそちのものであったか」
「よかったー…無事だったんだ!」

はぁああ、と一気に力が抜けた。

相手の手にある桃色の携帯に安堵の溜息。
兎に角、親に連絡だ。連絡すればいいのだ。

オジ…信玄様から受け取り、携帯を開く。
けれど表示されていたのは「圏外」の文字。

「なんで…」
「どうなされた?」
「ねえ信玄様、ここ電波無いの?」
「でんぱ?とは」
「携帯の、…ええと電波です」
「…はて」

はて。って…電波は電波だよ。
わかんないってことはつまりは無いってこと?

信じらんない。
電波が無いなんて。

 
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