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Yu u ka i i chi re n

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臨戦態勢…などという格好いいものではない。
問題は、如何にして このハゲ三人から逃げようかということ。

「くそ…何故手を放した…この阿呆が」
「俺だけのせいか。てめぇらがだらしねえからこうなってんだ」
「ああ、くそ、こんなものを着てるから動きにくいんだ」

苛々と男たちは鎧を脱ぎ捨て始める。
そんなに重いのか。
言い争っていても私から目を離さない三人に、ぐっと拳に力をこめ、じりじりと後ろに足を進める。

「言っとくけど私、これでも負けたことないんだから!」

…逃げ足の速さだけは。

「ああ?」
「この女…下手に出てりゃいい気になりやがって」
「犯して素っ裸のまま切り刻んでやる!」

刀を振りかざし、追ってくる。
 
どうせ撮影用なんだ。刀もただの玩具。
でも当たれば痛いだろう。
だけどそんなもの、期末テストで9点取ったことに比べたら怖くない。
それがバレたときの、うちの母親の鬼の形相に比べたら…怖くない!

「んなの、」

一人。

「お断りに、」

二人。

「決まってんでしょッ!」

三人!

こっちは貞操がかかってんの!
あんたらが構わなくてもこっちが構うわハゲチャビン!

「仲良く死んでろっ」

人を殴るのは、やっぱり痛い。
ガリガリの奴らだったけどやっぱり男の人の体は硬かった。
伸びている三人を踏まないようにその場から離れる。

「何なの今の失礼な奴らは!」

もう一度周りを見渡す。
似たような格好の人たち。
馬に乗る人もいる。
みんな鎧を着て、武器を持って…戦っている。

だけど、おかしい。
撮影現場に、カメラを持つ人がいない。
車も見当たらないし。

至近距離で撮ってるのかな…?
もう少し近づいて…


「…ん…?」

ごろり。
突然 目の前に、何かが転がった。
どろりと地面に広がる朱に目を見張る。

「……な、に、これ」

人形?

「なんだぁ、人形か…」

触れた体は、本物のように温かい。
 
「良くできてる……血も、」

まるで本物みたいに鮮やかな赤――
ごろりと転がす。

「人形」と「目」が合った。

「あ、ぁが…ッ」
「っ!!」

ひゅうひゅうと喉を鳴らす。
その人形は、息をしていた。

目を大きく見開き、懇願するように私を見る。

「たったすけ…て、くれ…」

私の脳が見た情報を正式に解析できていないのならどんなに良かったか。

彼は、人形でなくてはならなかった。
なぜなら「それ」の、お腹から足にかけての部分が、無かったから。


「ぎゃあああ!」

すぐ後ろで人の声。
嘶いた馬が倒れる。
刀が斬りつけた箇所からは大量の血飛沫。
あの刀…本物なんだ。

「ギャハッアハハハ!」
「死ね、死ね死ねしねしねぇ!」

狂ったように叫ぶ人。逃げる人。追う人。
何人もの人が死んで、いる。

なんで殺し合ってるの――ここはおかしい。

違う、映画の撮影現場なんかじゃない。
刀、槍、馬 ――
此処は、一体…

「わァアアア!!」

また 私の目の前で、たった今、人が殺された。
ごろり。また一つ。また、二つ。
 
首が転がった。

「っ、あ……ぁ…!」

焦点の合わないそれは、後ろからやってきた人たちに踏まれていく。


「やだ、何、ここ…ッせんぱい、どこ…?」

先輩は、どこにいるの。
まさかもう巻き込まれてたり…

いやな考えばかりが浮かぶ。


鎧が動き回り、武器を持って目の前の人を殺している。
こんな非日常… 夢だ。これは悪い夢だ。

だけど、こんなとこで止まってたら巻き込まれる。
嫌だ。逃げなきゃ。
立ち上がり、兎に角足を動かした――そのときだった。


「どけどけどけどけどけどけーーッ伊達政宗ぇ!真田源次郎幸村っ押して参るッ」
「Ha!今日も無駄に熱くてcuteだな幸村ァ!Come on!さっさとかかってきな!」

大きな叫び声が二つ。
私に向かってきた。
視界に入る青と赤。

――――こ、殺される!

あの人たちみたいに、なる…
自分の切られる瞬間が脳裏によぎった。


「やだッお母さ、ん、」


いやだ。

誰か…助けて……!


 
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