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Yu u ka i i chi re n

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「こんなこと」が出来るのは、今が平日の早朝で、他に客がいないから。

私は、先輩と一緒に 4人用のテーブルに2人で陣取って勉強道具を目一杯広げていた。


「っわっかんねー…」


両腕を限界まで前に突き出して、ぐてっとうつ伏せに倒れ込む先輩に 小さく溜め息。

―― つまんない。せっかく会えたのに。結局ただの勉強会かぁ。
ぼーっと身の回りを眺めて、自分の足元まで視線をずらす。
私のお気に入りの、]の刺繍が入った紺ソから糸が一本飛び出ていた。ショック。こんな格好で先輩と一緒にいたんだ。
まぁ、先輩は気づいてもいないだろうけど。

それからまた、手元の紙カップに視線を落とす。
さっきからこれの繰り返し。
 
「お前いつまでそれ見てんの」

ぐるぐる ぐるぐる
めがまわる

オレンジと白のコントラスト。
ストローを慎重に持ち上げる。

「悠名、溶けるよ」
「見てるだけで目回らない?」

「なにが?」
「マックフルーティー」

私の言葉に先輩の目が点になったのをみたと思ったその瞬間。

「なっに、小学生みたいなこと言ってんだよ」

突然額をはたいたのは先輩の手にしている参考書。
バカな脳が余計バカになりそう。
ちょっと笑ったのにまたこの世の終わりみたいな顔に戻った先輩が背もたれに寄りかかった。
イライラしているのだ。受験勉強とやらで。

「あーあ…受験かぁ死にたい」
「別に死ななくても。努力は実るよ」
「そう簡単に世の中回ってないの」
「へえ」

彼は自分の膝に拳を落とした。
これは…例の年上と別れたんだな。1ヶ月…まぁ持ったほうか。

まだ、私じゃだめなのかな。
またオレンジと白のマーブルに目を落とす。

ぐるぐる ぐるぐる
簡単に回ってるじゃないか。
地球だってマックフルーティーだって。

…わたしの恋だって。

トルコ風アイスみたいな景色の中を
時速何回転かで回って……

って………なんで
なんで私回ってんの?







ぐにゃぐにゃした空間の中、オレンジと白に混ざったマーブルに囲まれて、私はひたすらぐるぐると回っていた。

どうやら溶けかかったマックフルーティーが私まで溶かしてしまったらしい。
いやそんなばかな。

そんなことより気持ち悪い!吐く!
吐いてしまう バニラ香るこの素晴らしい空間で。

もう限界――――
そう思ったその時だった。


ごろごろごろ
冷たい空気から一気にむわっとした熱気のある空間に飛び出たと思ったら、私はアルマジロ状態になっていた。
転がった私の体は何か硬いものにぶつかって、ようやく止まったらしい。

「っい、たたたた…」

もう何なの。
土埃の酷いそこから起き上がり、制服の汚れを払う。

「邪魔だ!どけェエ!」

どん、と男の人にぶつかって私はまた倒れ込む。

「いったい!」

手や足を踏まれた痛みに私は飛び上がった。

「ちょっと!踏まないでよ!」
「あぁ?」
「おい、こんなところに女がいるぞ」
「ンだぁ?変な格好して…」

変な格好はそっちでしょ!
鎧なんか着て…映画でも撮ってるのかな?
この人たちエキストラの人?

 
じろじろと上から下まで眺め回す視線に耐えかねて目をそらす。
周りを見渡せば、そこは平坦な土の上だった。

「ていうか、なんで外にいるんだろ?それにここ、どこ…」

東京の、しかも新宿にこんなとこあったっけ?
見慣れないし、どこにもマックなんか見当たらない。

遠くには森が見えた。
なんだか鎧武者みたいな格好の男の人たちが沢山いて、剣や槍を突き合っている。

私…先輩と朝マックしてたはずだよね。
一体なにがどうなってるんだろう。

考え込んでいたそのとき。
突然、腕を掴まれた。

「な、ッ…」
「まぁなんでもいい…おい、先に見つけたのは俺だ…いいよな…」

何の話だ?
男はニヤニヤと笑いながら、腕を掴む手を強くする。

「何なんですか…」
「おーっと逃げんなよ女ァ…」
「なぁ?ちィとガキだし南蛮人のようだが、かまわねぇ」
「その着物の下…どうなってんのかなぁっ!?」
「!!!」

こいつら…痴漢!?
とっさに体を低くした。
襲いかかる二つの体の下すれすれに体をねじ込む。
私の行動に不意をつかれたのか、腕を掴む手が放される。

ドッ、 倒れた二人の男を確認して、私は後ろに跳び退いた。
 
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