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Fee des neiges

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両腕の粛清

※暗いです。あと少々残虐な表現があります。
苦手な方は迂回をお勧めします。










「こんな上着、君に着せるわけにいかないね」

星空の下。
真っ白なコートをどす黒く染めた獅子は、困ったなと呟いた。





「大丈夫?」
「…き、」
「うん。僕は別に」

名前を呼びきれなかったが相手は理解したらしい。
差し出した手を強く握った彼はなんともないと笑う。
漸く安堵のため息が漏れた。

「マスターに怒られるかな」
「譲歩した結果がこれなんだ。君が気に病む必要はないよ」
「そう…なのかな」

挑発した此方にも非はある。
好ましくない結果も、あまり綺麗とは言えないこの世界にもただ苛立つ。
例え同業者であっても立場が違えば状況など一変するのだから。

「帰ろう、あれだけ音を立てたんだ。人が来る」

足元に転がった数人の男達は、荒い呼吸を繰り返すかぐったりと地に伏すか。
仰け反らせた喉から言葉にならない音が漏れている。
これ以上聞いていたくなくて、見ていたくなくて、友人を促した。

「…っ、待て…」

仰向けに横たわる一人の口が薄く開く。
まだやる気なのか。俺は身構えた。

「っけ…もの、」

吐き捨てられたのは侮蔑の言葉。

「化け物…」

ばけもの。
その言葉に、彼の肩が揺れた。

「へぇ…?」

にこりと口元を歪ませて振り返り、ゆっくりと声の主に歩み寄る。
はっとしてその腕を掴んだ。

「何?」

目が笑ってない。
ぞくっと背筋が凍った。

「ロキ、もういいだろ」
「…よくない」

内心穏やかでないのは此方も同じだ。
ただの苦し紛れの抵抗だとしても蔑みの言葉に何も感じないわけがない。
それでも戦意を失っている相手に対してやっていいことと悪いことくらいはわかる。

「君、何されたか覚えてないの」
「そ…れは…」

ロキは俺の腫れた左手首に目を落とす。
使い物にならないだろう、そこは解毒した後も未だ痺れはとれていなかった。
折れてはいない。けれど罅くらいは入っているかもしれない。
男として最も屈辱的であろう「こと」もされかけた。
上着はシャツ共に最早衣服とは言えない状態。
あのまま彼が現れなかったら、と考えればぞっとする。

「やれよ、どうせ失敗したことがバレたら殺されるんだ…」
「ふうん」

吐き捨てる声は震えていた。
少し前まで獰猛に弱者を弄んでいた人物とは思えない。

「僕には同情してほしいって聞こえるけどね」
「ロキ!」

精一杯伸ばした両腕に力はもう残っていなかった。
骨が気味の悪い音を立てて軋む。
がくん、膝を折った俺を抱きとめる腕に顔を上げる。

「どうして君はそうなんだ…」

彼の後ろで今度こそ言葉を失った男が倒れるのが見えた。

「…」

格好悪い。
友人を助けようとして結局このザマだ。
無様としか言いようがない。

力強い腕に抱かれて、だから嫌なんだと唇を噛んだ。
無力な己を再確認してしまうから。
大嫌いだ。何もかも。
嫌なんだ。

「気が狂いそうだ、殺したっておさまらないのに」

どんな形でもいいから、自分も彼に返せるものがあればいいのに。

本当に大事なものを守ったはずなのに手にした未来は望まないもの。
欲すれば失うのだ。守ったものと同等かそれ以上のものを。

「ここまですることないだろ」
「やらなきゃシュエがやられてた」
「ロキ、ギルドの仕事は、」
「ならこうしようか。僕はフェアリーテイルの依頼を達成させるために必要なことをしただけ。君を助ける為だなんて思っていないから、君は気にしなくていい」

闇に散りばめられた星達が一斉に瞬いた。

「僕の存在が君のためにあるなんて、思っていないよ」
「…、」
「無償の愛って、そういうものだろ」

なんて顔で笑うんだ。
何てぎこちない、拙い笑顔。
お前らしくもない。

ロキ。

ロキ。

何が正しいのかなんてわからない。
俺にはお前を責める権利なんかないけど。
そんな悲しいことを言わないでほしい。

わからないよ。
どうすればよかったの。
お前が優しすぎるから、俺は。

「シュエ」

あの星が消える日が来たとき、彼も消えてしまうような気がした。
玉座に座るべき彼は、控えめな光を放つ。

最期の時も、きっと彼は笑うんだろう。
それとも、泣くのかな。

「僕は」

ああ、星が泣いてる。

「君を傷付ける存在が許せないだけだ」

温かい。
その涙に触れた。







**
11'06/07 09:15
 加筆:11'07/03 19:47

獅子王編終わった直後だと思っていただけると。
何か真剣に書くとこう、ギャグになるのは一体なにゆえ。
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