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Fee des neiges
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適当に話して、丁重にお断り入れるのが一番だ。
「あのー…ジュエとはどういった知り合いなんですか」
「もともと其方のお店でコーヒー豆を仕入れておりますの」
見合い相手(らしい)の少女は、写真で見るより幼さを残した美人だった。
化粧や光の当て具合でどうとでもなるのか。
昨今の技術には恐れ入る。
「いつもは執事に買いに行かせているのでたまにはわたくしがと思ってギルドへ出向く際にお店に窺ったんですけれど、そのとき少しお話しする機会がありまして、叔父様とはそこで意気投合いたしましたの」
「はぁ…イキトウゴウね…」
どこまで本当なんだか、わからない。
この子が気を使っているのか何なのか。
やたらふわふわした喋り方をする子だ。
新顔のルーシィも似たようなにおいがするけれど、それとはまた別の人種のようだ。
「ところで…そちらは?お友達かしら」
「へ?」
「ですから、後ろの方」
粗茶ですと出された紅茶が何故か自分の頭上で浮いている。
カップを持つ手からその先を辿って行けば、いるはずのない人間がそこにいた。
「ぐ…ッ」
摘んだマカロンが指から落ち、取りこぼす。
けれど、今のシュエにそれに構う余裕はなかった。
垂れた目に、無愛想にへの字に曲げた唇。
グレイ・フルバスター。
「なん、…え?」
何でお前がそこにいる!?
「俺の許可なく女子と話してんじゃねえよ」
開いた口が塞がらず、言葉にしようとしたそれは音にならずぱくぱくと口を開閉するだけに至る。
「結婚なんてぜってーさせねえ」
いや、待て待て、グレイ君「まだ見合いの段階」ですけど。
どこまで飛躍しちゃってんのかな君は。
一切言葉に出来ずにいるシュエを余所に、グレイはその隣にどかっと腰を下ろした。
勝手に座るな、シュエはグレイを咎めるように睨みつける。
だが、相手は仏頂面でマカロンを一つ摘み、それをシュエの口に押し込んだ。
黙れということなのだろう。
黙るどころか、吃驚し過ぎて思うように声が出ないのだが。
「そう…あなたが氷の魔道士グレイ・フルバスターね」
少女はにこりと赤い唇をゆがませる。
「お噂はよく耳にしていましてよ」
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