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Fee des neiges

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after*moon

後ろの壁に張り巡らされた叔父・ジュエが作成した高カロリー食の献立表に引き攣った顔を抑えつつ、盛大なため息をつく。
(俺は高校生の運動部、いや海軍空軍かっつうの。)
体が資本だとはよく言うが、やりすぎだと思う。

明日の朝には戻ると言って、近所の子供達の世話(この店が託児所と化しているため)を押し付けて出て行った叔父を見送り、ようやく子守も終わって一息つく。
仕事が片付かなくて、迎えに来られなくなったと母親から連絡をもらった一人を自分のベッドに寝かしつけた後は、客用のコーヒーを勝手に引っ張り出して淹れた。
苦めに入れたコーヒーが、疲れた体に染み渡る。

「こんばんは。良い夜だね」

不意に、背後から声。
驚いたが、「またか」と鼻をならした。

戸が開いた音も、気配もなかったが。
どこから入ってきたのか。神出鬼没な男だ。

「…げ」

頬杖をついた先に、仄かに匂った嗅ぎ覚えのある香水の香り。
シュエは更に眉を潜めた。

「ん?会えてうれしいって?」
「言ってねえよ、馬鹿」

すぐ隣に手を付き、椅子を引くのはロキ。
ルーシィが来てから、会う度彼女に言い寄っていたため少しは自分の周りも静かになっていたのだが。
彼女が精霊魔導士であると知ってから口説くのは諦めたらしい。
またいつもの日常が戻るのか。嫌いではないが、少々迷惑だ。
特に、親馬鹿のシュエの前で口説いてくるのは勘弁してほしい。本当に。

「つうか、何しに来たわけ」
「今日は紫外線、少ない方だってさ。お天気お姉さんが言ってたから」
「聞けよ」
「聞いてるよ?シュエの声は一文字だって聞き逃したことないから」
「…イヤ…さむいっス」

ぞくっと肩を抱くシュエに、全く効いていないのか にこにことロキが笑う。
「そういえば、」いつものように傍らに女の子を侍らせていない彼に、シュエは意外だと目を丸くした。

「で、お姉さんたちは?振られたのか」

女癖が酷いと、そろそろ刺されるんじゃないのか。
若干心配だ。

「うん、君が妬くと思ってね。今日は遠慮してもらったんだ」
「はぁ」

…前言撤回。
本当に意味がわからん男だ。


次の満月まで、数日。
窓から見える完全な丸ではない月を眺め、小さく息を吐いた。

「毎晩子供たちの世話か。大変だね」
「見てたなら付き合えよ」
「僕も女性たちのお付き合いに忙しいからね」
「あっそう…それは結構なことで」

叔父が出かけているだけ救いだ。
それをわかってて来たんだろうが。

「シュエは、占いとか信じる?」
「さあ。前にミラが俺の手見て生命線長いって言ってきたけど」
「長生きできるかもって?」
「まあ、信じるというか…それくらいは希望の範囲で」

日の出ている日中、何時間も防壁を張ることで生命を削っているのはわかっている。
長生きという定義が何歳までかはわからないけれど、自由に動き回れる時間があとどれくらい残されているかなんて、自分にはわからないから。

「希望、ね」

シュエの言葉に、ロキが自嘲気味に笑う。

「何、どうしたの」
「ううん、別に」

寂しそうに伏せた目に、どうかしたのかと問いかけたが有耶無耶にされた。
何なんだと聞き返そうとすれば不意に手を握られる。

「叔父さんは、そう願ってる」

ぐっと引いた手を戻された。

「…わかってるよ」

だから寝る間も惜しんであんな献立表作っている。
今日出かけているのも、隣町に精の付く食べ物が売っているからそれを買い求めに、だ。

「勿論、僕もね」
「うん」

「そうだ、手相を占ってあげるよ。手、かして」
「もう握ってんじゃん…」

途切れがちの雲間で、月の光が陰り、また晴れる。

「口実だよ」

青白く照らされたロキの目が煌々と光って、夜の猫みたいだ。

「君に、触れてみたかっただけだから」

口角を上げる、その顔に引き攣る。

「うわー…」
「惚れた?」
「引くわ。かなり」
「あ……そう」

唇が触れそうなくらいにまで近づけられる顔を寸でのところで押し返せば、相手は残念そうに苦笑した。






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11'05/12 13:32

ロキとルーシィの回は泣けますね。
小指ぶつけたときくらいに。(わからんわ)
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