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Fee des neiges
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戯れにも触れることが出来ない、ほしかった温もり。
数時間後には消えてしまうから、何度も辿った。
忘れてしまわないように、消えてしまわないように。カチャリ。
ベッドの脇に置かれた小さな本棚をテーブル変わりに、ソーサーとカップが軽く当たって音が鳴る。
キャラメルマキアート。
封を開けてしまったから、と昨晩ジュエが寄越してきたものらしい。
コーヒーなら兎も角、朝からそんな甘いもの、余計に喉が渇くんじゃないか。
君の気が知れないと苦笑する。
「食いモンは知らねーけど、現地の水だけは飲むなよ。下すから」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃねぇ。あそこはミネラルウォーターだって本物か怪しいようなところだって聞いた」
ぎゅうぎゅうと力を込めた腕から抜け出して、シュエが笑う。
「痛いよ」
シュエはグレイに掴まれた手をやんわり解き、後ろ手でカップを引き寄せた。
口づけたカップがひび割れている。
変え時、なのかもしれない。
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