『これからボクが書いていることを、落ち着いて読んでください。』


そんな重々しい文から始まった、かつてのチームメイトのメール。
その下には、長い一文が書かれていた。



キセキ達の中で最初にそのメールに気付いたのは、神奈川の海常高校にいる黄瀬だった。
学生生活を送りバスケ部に所属する傍ら、黄瀬はモデル業もやっている。
仕事関係の連絡のため黄瀬はベンチに携帯を置き、すぐに気付けるようにしていた。

シュート練を終えたところで、黄瀬はベンチにおいたままの携帯が受信メールがあると告げるイルミネーションが光っていることに気付く。
携帯を開いたところ、メールの宛先は仕事関係ではなく、帝光時代の特別仲の良い親友だった。
黒子っち!、送信者の名前を見て思わず心が躍った。

自分から黒子にメールすることはあっても、黒子からのメールは珍しい。
黄瀬はすぐさまメールを開いた。

宛先は自分以外にも、キセキ達の名前が連なっていた。
あの黒子が一斉送信…中学時代は赤司がよく一斉送信で部活の連絡をしていたなあと思い出す。

(でも黒子っちがみんなにメールを送るなんて…ホント珍しいっスね…?)

不思議に思いながらも黄瀬は本文に目を通した。
しかしそこに書かれていた内容に、自分の目を疑った。

もう一度、最初から読んでみる…だが内容は変わらない。
信じられない…嘘っスよね…?、思わずこれは夢じゃないのかと否定したが、そこにあるのは紛れもない現実だった。

現実をようやく受け入れた黄瀬は、携帯をぎゅっと握りしめる。

「セ、センパイっ!」

練習していた早川は一旦動きを止めて黄瀬の方へ体を向ける。
三年生が引退して、それまで引っ張って来ていた笠松に変わって、精神的主柱となったのは早川だった。
相変わらず早口でラ行の発音は出来てはいないが、レギュラーの経験や瞬発力、パワーに関しては二年生トップと言っても過言ではない。

てっきり黄瀬のいつものくだらない話なのかと思いきや、その声色と表情から何か尋常じゃないことがあったのだと察した。
黄瀬の目が光ってみえるのは、きっと照明のせいなんかではなく潤んでいるせいだった。

「オレ、ちょっと誠凛に行ってきます…!」

「は!?お前何言ってんだよ!」

「黒子っちが…だって、黒子っちが…!」

今だ状況を掴めていない早川に、黄瀬は手っ取り早く自身の携帯を見せた。
未だ点灯したままの画面には、黒子からのメールが表示されている。

登録された名前が『黒子っち』であったため、あの影の薄い少年か…と認識するのに僅かに時間がかかる。

そして何気なく目に入ったその文面は、この事態を把握するには十分すぎるものだった。




『今まで言えませんでしたが、実はボクはある病気を患っていて、あと数日の命なんです。』



120811



title:水葬


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