「移動教室ってめんどくさいっスよねー」

「屋上でサボれば問題ないだろ」

「だからお前らはダメなのだよ」

「お菓子なくなったから購買寄っていい?」

「買い過ぎはよくないぞ」

ある昼下がり、とある普通の高校の廊下でのこと。
今は昼休憩の時間であり、生徒は各自好きなように過ごしている。
会話を繰り返していた彼らは同じ部活のメンバーであった。
それぞれの個性を主張するような鮮やかな髪の色を持つ彼らが揃って廊下を歩くだけで威圧感があった。

先頭を歩く赤い髪の少年が、購買へ向かう為に角を曲がったところ、ちょうどそこで一人の学生とぶつかった。
赤い髪の少年は部活で鍛えているせいか、少し体が後ろで傾いた程度であったが、ぶつかった相手はバランスを崩して倒れてしまった。
自分より少し低い身長だろう彼は…名前こそ知らないがおそらく同学年だ。
学年別に指定されたネクタイがそれを示していた。

「すまない、大丈夫かい?」

「あ…すみません、ボクの方こそ」

スッ、と赤い髪の少年は、倒れた少年へ手を差し出した。
倒れた少年が、前髪の隙間からそれを捉える。
見えた瞳は、空のように澄み切った青だった。
視線がそこで、交錯する。

「…!」

「……っ」

時間が止まったかのような錯覚が襲う。
それは赤い髪の少年と空色の髪の少年だけではなく、後ろにいた他のメンバーも確かに感じていた。

「君……どこかで、会った……?」

「………あれ、っ?……何でだろ、涙、が……」

赤い髪の少年が優しく問いかけると、空色の少年の目から静かに涙が伝った。
涙は倒れた衝撃の痛みによるものではなかったけれど、無意識の内に流れていた。

お互い初対面のはずなのに、胸の中を駆け巡るのは懐かしい感覚。
それと同時に、ぎゅっと締め付けられるような想いが爆ぜる。

まるでこの世界ではない何処かで会ったことがあるような気がした。

「ねえ…君の名前は……?」

「…ボクは、―――です」

廊下の窓から吹いた風が、少年の言葉を攫っていった。



120921



title:たとえば僕が


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