テツヤのご両親から、彼の容態が急変したと連絡があったのは僕とテツヤが別れてから数時間後のことだった。
きっとテツヤの携帯の着信履歴から僕に電話がかかったのだろう…最後にテツヤに会ったのは僕だから。

すぐに僕は病院の場所を訊き、他のメンバーへテツヤのことを知らせるべくメールを一斉送信した。
これが涼太や桃井だったならば、あまりの動揺にみんなへ連絡するのを忘れていたかもしれないな。
そういう意味で、テツヤは僕と最後に会ったのか…僕の考えすぎかな?

いずれにせよ、僕は病院への道を急いだ。
胸の中を渦巻いている、言葉で表せないような嫌な感覚が、どうにも拭い切れない。



病院に到着して、テツヤが運ばれたという個室へ向かう。
エレベーターは全て昇降中で、その時間すら惜しかった僕は階段を駆け上がる。
そしてテツヤの部屋の前まで到着して、勢いのままに扉を開ける。

そこに他のキセキの世代の顔ぶれは無く、どうやら僕が一番だったようだ。
ベッドの傍にテツヤのご両親、反対側には白衣を纏う医者と看護師の姿。
僕の位置からでは、テツヤの表情が見えない。

そして僕は、違和感に気付いてしまった。
…どうして、医者は何の行動もしてないんだ。
…どうして、テツヤのご両親は泣いているんだ。
…どうして、この病室に無機質な機械音が鳴り続けているんだ。

その事実に気付いてしまい、だけれど未だに受け入れられない僕はテツヤの傍へ駆け寄った。

「テツヤ………」

結局君は、また誰にも別れの言葉を言うことなく消えてしまったんだね。



廊下を駆ける騒がしい音が近くなったと思えば、この部屋の扉が開いた。
視界の端に鮮やかな色が入ったから、目を向けて確認すれば、キセキの世代達が立っていた。

「赤司っち………黒子っち、は……?」

涼太の途切れ途切れの言葉に、僕は小さく首を振った。
すぐさま涼太と大輝、敦が飛び込んで来てテツヤの血の気を失った顔を覗く。
真太郎はこの機械音で、既にテツヤがどういう状況か悟ったようだ。

「黒子っち……」

「テツ、く……っ」

「テツ……」

「黒ちん……」

「黒子……」

こんなにもテツヤの名前を呼んでくれるのに、彼がそれに応えることはない。
その事実に堪えきれなくなったか、涼太と桃井は泣き崩れ、敦もうっすらと涙目になり、真太郎と大輝は顔を俯かせる。


「黒子!」


静寂を破ったのは、野蛮な声だった。
その正体は、テツヤの今の相棒である火神大我だった。
何で彼が…ああ、きっと涼太が連絡したのだろう。

僕達の様子に、火神大我はテツヤがどうなったのかを察したらしい。
それでも僕らの近くへやって来てテツヤの様子を窺う彼からは、まだテツヤの死を受け入れられないということが窺えた。

「嘘だろ……おい、黒子!!」

「やめろ、火神大我」

事実を信じられないと言った火神大我がテツヤに掴み掛かろうとする行動が視えたので、僕は彼の動きを先読みして腕を制した。

「テツヤはもう目を覚まさない…もう十分病に苦しんだんだ、テツヤは」

そう言ってやれば、力の入った彼の腕が重力に従って落ちて行った。

僕は他のメンバーに告げるように言葉を続ける。
…本当は、僕自身に言い聞かせるためだったかもしれない。

「彼は自分の好きなバスケを最期まで出来た…君達もテツヤに会っただろうが、テツヤは笑っていただろう?僕達がこんな顔でいて、彼が喜ぶとでも?」

本当は否定したいよ、また僕達の前に戻ってきてくれるんじゃないかと。
だけど今この現状が示しているのは、テツヤが永劫僕達の前に現れないということ。

キセキの世代だと周りは囃し立てているが、結局僕らはテツヤには何もできなかったね。
君は長い時間、病と戦ったんだろう。
今の僕が言えることは、ただ一言―――。



「おやすみ、テツヤ。良い夢を―――」



脳裏には、君の微笑んだ顔が未だに焼き付いている。



120909



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