百戦百勝、それは帝光中の絶対理念だ。
帝光中はバスケの強豪校であり、バスケ部は百を越える部員がいる。
特に僕を含めたある五人を、十年に一人の天才が五人同時にいたと称して、キセキの世代と呼んでいる。
僕は帝光中の理念に最も相応しいメンバーだと思っている。

その中で僕は個性的な他の四人を従えてきたわけだ。
そして一年生の半ば、僕はテツヤに出会い、彼の才能を見出すことになる。

テツヤの基礎体力は常人よりも少し低く、大輝や真太郎のような特殊能力もない。
それなのに、彼のミスディレクションを利用したパス回しは僕達のサポートとして活かされ、帝光の勝利に大きく貢献した。



しかし中学三年の全中を最後にテツヤは姿を消した。
その後テツヤは元々の影の薄さを利用して、卒業までずっと僕達との接触を避けていたようだ。

次にテツヤに会ったのは、ウインターカップの初日だった。


テツヤが僕達を倒そうとしていたのは知っていた。
帝光の理念にテツヤが違和感を感じていたのも薄々気付いていた。
僕はテツヤの気持ちなんて、分からなかったけれどね。

だって、勝つことこそが全てだろう?
今まで僕はどんな勝負事にだって勝ってきた、負けることなどあり得ない。
全てにおいて勝つ僕が、全て正しいんだ。
それなのにテツヤは否定する…それが最初は分からなかった。


理解できたのは、ウインターカップ決勝戦で誠凛に負けた後だった。



「実は赤司くんにばれないように必死だったんですよ?」

「テツヤは平然を装うのが得意だからね。涼太や大輝は分かりやすい反応をしてくれるんだが」

「病気のことを隠すとき、要注意していたのは木吉先輩と桃井さんと赤司くんでした。特に赤司くんには、帝光のときに手首を軽く捻ったのを見つかった経験がありましたから」

そんなこともあったな、と零して、過去の記憶を蘇らせた。

試験期間が近い頃合いだったか、テツヤの動きに少しだけ異変を感じた後に、彼が部室で手首にテーピングを巻いているところを目撃したから、異変の正体を確信したんだ。
あの後は桃井にテツヤと同行して寄り道せずに帰宅するように伝えたが…きっとそれは叶わなかっただろう。

「赤司くんのその眼で、見抜かれてしまうかと思いました」

「テツヤが巧く隠すから分からなかったよ。尤(もっと)も、僕とテツヤがあまり会わなかったことも起因しているかもしれないが」

洛山に入学してから、地元へ帰るのはごく数回であったし、その間テツヤ達にも会わなかった。
随分と長い時間が経っていたようだ。

「僕が負けたのは君達が初めてだよ、テツヤ。初めてのテツヤとの試合で、初めて僕は負けた」

「…はい」

「君とまた再び試合がしたい…だけど、それは叶いそうにないね」

「赤司、く…?」

僕はゆっくりとテツヤの方へ手を伸ばした。
伸ばした先は、テツヤの心臓の真上辺り…そこへ指先だけを軽く添えた。

「少し無理をしているんじゃないかい、テツヤ?」

「…っ」

テツヤの目が僅かに動揺の色を見せたのを、僕は見逃さなかった。
こんなに至近距離で、しかもテツヤの目を見ながら問い質せば、必ず相手の心理を読み取れる自信があったからね。

フゥ、とテツヤは一息ついて苦笑を見せた。

「…赤司くんのその眼には、敵いませんね」

その一言は、先程と違って疲労が混じっているように聞こえた。
やはり僕が視たテツヤの状態は、正しかったらしい。

「早く休んだ方がいい、テツヤ」

「いえ、もう少しだけ…まだ君と話していたいんです」

帝光中三年のときは、皆さんと過ごした時間が少なかったでしょう…そう言って儚く笑うテツヤを、僕は無理矢理にでも休ませるべきだったんだろうか。



120906



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