ストバスができるこの広場にテツと来るのは、あのウインターカップの真っ最中にテツにシュート教えたとき以来だったか。
あのときはからきしシュートが下手くそだったテツが、今は試合で使えるほど入るようになったもんな。



「…本当に大丈夫か?」

「はい」

テツがバスケをしたいっつーからこの広場にやってきたのがついさっき。
幸いオレ達以外の人はいなくて貸切状態だった。

ボールを手で回しながら、オレの斜め後ろに立つテツを気にかける。
顔をテツの方に向けるのと同時にオレはボールを放ってシュートした。
シュッ、と短い音がしてボールが地面に弾む音が聞こえた。

「…どうして君はそんな状態でも入るんですか」

「は?今更だろその質問。そりゃオレはガキの頃からストバスやってたしな」

「本当にバスケしか頭にないんですね」

「殴るぞてめぇ」

拳を作って言えば、冗談ですとテツが答えた。

普段と変わらねえやり取りなのに、それでも違和感を感じてしまうのはやっぱりついこの前の出来事のせいなんだろうな。

テツが患っている病気ってのは今となってはもう手遅れな段階までに進んでいるらしい。
中学時代を共にしたオレ達や誠凛のヤツらでさえ、そのことを知ったのは数日前のことだった。

テツは悩みを誰に相談することもなく一人で抱え込むタイプだ。
オレ達に相談してほしかった…なんてことをオレが言う権利もねえ。

テツを一人にさせた始まりは…オレのせいだから。

それでもウインターカップで誠凛に負けてから、考え方は変わった。
少なくとも、テツには感謝してる。

なのに、和解した直後にテツと過ごす時間がもう限られてるなんて言われて、信じられっかよ…。

「辛くなったら言えよ?」

「心配性ですね、君は」

「お前が言わねえからだろ…ったく」

転がっているボールを拾って、テツにパスをする。
そうしてボールを軽く地面に弾ませて調節して、テツのあの独特なシュート体勢に入った。

ボールはリングに当たりながら、やや危なげにネットを潜った。

「入るようになったじゃねえか」

「君に教えてもらった成果です」

テツが小さく笑ってるのは、きっと楽しいからなんだろうな。

「誠凛のみんなとのバスケも楽しいですが…やっぱり青峰くんとのバスケも楽しいです」

懐かしいな、そんな風にテツが言うのは。
オレだって、桐皇でのバスケも楽しいが…それでも一番気が合うのはお前しかいねぇ。
やっぱりオレの相棒は…お前しかいねぇんだよ……。

「…当たり前だろ、バカ」

「青峰くんにだけはバカ呼ばわりされたくありません」

「うっせぇ」

無意識の内にオレとテツの手が伸びて、自然と拳が合わさった。
…テツの手がほんの少しだけ感じたのは、オレの体温が高かったということにしたかった。



120904



title:水葬


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