中学三年生の全中が終わった直後にテツくんは姿を消した。
その頃に病気を宣告されたんだってテツくんは言ってた。

それを知らされたのはついこの前のことで、同時にテツくんの命はあと少ししか持たないということも聞いた。
どうして教えてくれなかったの…真っ先に出かけたその質問だけは飲み込んだ。
きっと言い出せなかったんだよね…あのときのみんなは、変わってしまっていたから。

代わりに訊ける範囲の質問をたくさんした。
それでも行き着いた答えは、どうして早く教えてくれなかったの?、だった。



その日の夜、テツくんから聞いた情報を元にテツくんの病気を調べてみたけど…やっぱりそう簡単に治らないんだって。
情報収集には自信があったのに、いくら調べても結果は残忍なままだった。

「テツくんの病気、どうしても治らないんだね…」

「…調べたんですか?」

「うん。だけどダメだった…」

ごめんね、その言葉しか出なかった。


テツくんのいる誠凛と、私と青峰くんのいる桐皇は同じ東京都内にある。
ミドリンのいる秀徳もそうだけど、都内に位置する分、私達はかなり接触が多い。

特に私はスカウティングのために得られる情報は全て調べてきた…中でもインターハイやウインターカップで当たった誠凛の情報は念入りに集めた。
勿論テツくんの情報だって…って言っても彼は未知数だから、正直あまりいいデータは得られないんだけどね。

…でも、誠凛の人以外では一番テツくんを見て来たと自分でも思う。
それは敵としてと同時に、好きな人としての意味で。

ずっとテツくんにアタックしてたから、テツくんの微妙な変化にも気付ける自信はあった。
中学のときテツくんが手首を痛めたりしたときもすぐに分かった…それなのに。


テツくんが病気のことを隠していたことには、全然気付けなかった。

「桃井さんが謝ることはありません。寧ろ桃井さんの時間を割いてしまって…ボクが謝るべきですよね」

「ううん、違うの!何ていうか…ほら、いつもスカウティングばかりしてるから癖で調べちゃって…」

「桃井さんらしいですね」

テツくんが小さく笑って言った。
どんなテツくんも好きだけど、笑ったときの顔も大好き。

「私、やっぱりテツくんのこと好きだよ…?」

こうしてテツくんと過ごしていると、改めて思う。
ずっと胸の中に抱いていた恋心…恋愛に疎そうなテツくんには、私の気持ちは伝わっていなかったかもしれないけど。
今だから、伝えたい。

「…お気持ちはありがたいです。でも、こんなボクなんかじゃ桃井さんを幸せにすることはできません」

「それでも私、テツくんのこと大好きだよっ!幸せにできないとかそんなの関係ないよ、テツくんが…」

好きなの……消え入りそうな情けない声が出た。
視界がじわりと滲んで、こんな顔をテツくんに見られるわけにはいかないので俯いて隠した。

面倒な女だって思われちゃうでしょ…涙なんか、止まってよ…!

「ありがとうございます…でも、この先ボクより桃井さんに似合う人が現れると思います」

私の頭に、そっとテツくんの手が置かれた。
優しく撫でるテツくんの手に、心が落ち着く。

「例えば…青峰くんとかどうですか?」

「え!?大ちゃんは無いよ!イジワルだし口悪いし…」

顔を上げて反論すれば、テツくんがそうですねって言いながら微笑している。
いつの間にか、私の涙は引いていた。



そんなテツくんが好きなのに、この恋は叶うことはない。



120903



title:l o s t s k y


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