赤司くんに家まで送ってもらい、玄関先で別れたのがついさっきのこと。
既に帰っていた両親に、ただいまと告げ、キッチンに寄ってお茶を一杯飲んで喉を潤した。
ボクは自室へと戻り、扉を締め切る。

「…っ、はぁ…!」

その瞬間、自分の部屋に戻った安心感のせいか、今まで堪えていた痛みが襲ってきた。
糸がプツンと切れたように、僕は扉に背を預けながらズルズルと座り込む。

「…そろそろ、限界なんですね……っ」

みんなと再会した直後は、そこまで痛みを感じなかった。
それは偶然なのか、それともみんなに会えたお蔭なのか分からない。

だけど時間が経つにつれ、痛みが徐々にぶり返して来た。
うまく隠し通せていたと思ったのに…結局、赤司くんにはばれてしまったけれど。

「それでも、みんなと話せて良かったな…」

誠凛のみんなも大切な仲間であることに代わりはない。
だけど帝光時代、彼らと出会ってバスケをしていたからこそ、今のボクがあると思う。


黄瀬くんは相変わらずボクのことばかり気にしていたな。
バスケとモデルを両立する方が大変だろうに…身体にだけは気を付けてほしい。

紫原くんの大量のお菓子購入は久々に見た。
あんなにお菓子を買っても、数日後には無くなるんだろうな…。

桃井さんの気持ちに応えられなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいだなぁ。
それでも、彼女の前にいつかボクより素敵な方が現れるのを祈ってます。

青峰くんが練習に出てくれるようになったみたいで、ボクはすごく嬉しいです。
でも先輩方には迷惑かけないようにして下さい。

緑間くん、あの三毛猫の置物は君が買って来た新品ですよね?
使われた形跡もなかったし、何より値札シールがまだ付いてましたよ。

赤司くんの眼は本当に何でもお見通しなんですね。
だからこそ、赤司くんは人をまとめ上げるのが上手ですよね…本当に尊敬します。


次第に胸の痛みがズキズキと悲鳴を上げ始めた。
さっき赤司くんに指を添えられた辺りを、服の上から掴んでみたけれど、痛みが和らぐことはなく。

ああ、本当に限界なんだな…そう思うと自嘲的な笑みが零れた。
この状況で笑ってしまう、なんておかしいと思うけれど、それと同時に頬を一筋の涙が伝った。

だめだ、何だか意識が朦朧として…体が浮遊している感覚だ。

「……さよな、ら………っ」

精一杯紡ぎだした言葉は、誰に届くことはなく―――。

脳裏に浮かんだのはボクが今まで出会ったたくさんの人の姿。
その中でも、中心にいた彼らの際立つ髪の色だけが鮮明に焼き付いて。



それを最後に、ボクの意識は深く沈んだ。



120908



title:たとえば僕が


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