「だからお前はダメなのだよ」

周囲に何も言わず、その影の薄さを利用して勝手にフラッと消えていく。
お前の何を考えているのか分からない…その目が嫌いなのだよ。

オレよりも随分身長の小さい黒子は、対して驚いた様子もなく、首を僅かに傾けた。

「…君の発言にどう反応すればいいんですか?」

「フン………お前は一人で抱え込みすぎだということだ」

簡潔に言ってやれば、赤司くんにも似たようなことを言われました、と呟いて黒子は苦笑した。

夏に行われたインターハイの予選、そのAブロックの決勝で秀徳は誠凛に敗北を帰した。
そのリベンジはすぐにウインターカップ予選の決勝リーグでやって来た。

誠凛に負けたことで、帝光中最後の年のあのとき欠落していた何かを見出だすことができた。
今まで己だけを信じて点を取ってきたが、その考えは捨て…オレ自身が敵を引き付けてパスを出す、という結論にたどり着いた。

そうして敵の裏をかき、秀徳はリードを奪い返した。

…それもこれも、黒子のいる誠凛に負けたからこそ取り戻すことができた。

なのにいざ自分の悩みとなると、黒子は仲間に頼ることや相談するといった術を切り捨ててしまう。
オレ達に考えを改めさせる前に、自分もそうしたらどうなんだ。

「バスケは仲間を頼るくせに、それ以外は何も言わないのか」

「…みなさんの重荷になりたくありませんから」

「部活で三年間も付き合いがあっただろう、それぐらい重荷にはならないのだよ」

「そうでしたね」

オレ達はそう柔ではないことくらい、そんなことはお前もよく知っているだろう?

「そういえば…今日のラッキーアイテムはそれですか?」

黒子が指差したのは、オレの手にある今日のラッキーアイテムだった。
勿論、今朝もおは朝の占いはチェック済みである。
因みに今日の蟹座は二位であった。

「今日のラッキーアイテム、食品サンプルなのだよ」

「それ…おしるこですか?」

「そうだ。入手するのは困難だったがな」

相変わらず、おは朝のアイテムは奇抜だ。
だがその分、占いが当たる確率は恐ろしく高い。

そういえば今日の朝は、いつもと違う行動を一つ取ったな。

「ついでに見たが、一位は水瓶座だ。お前にはこれをくれてやるのだよ」

「…何ですか、これ」

「三毛猫の置物だ」

持参していた紙袋から、オレは持ってきた置物を黒子へ渡した。
白と茶色と黒の毛の猫が小さく体を丸めており、愛くるしい眼差しをこちらに向けているが、生憎オレは猫に引っ掛かれて以来嫌いである。

「オレは猫が嫌いだから、それを片付けられて清々するのだよ」

「ありがとうございます、緑間くん」

ボソッと聞こえた、素直じゃないですね、という言葉は聞かなかったことにしてやる。



偶然おは朝の占いで、偶然黒子の星座の水瓶座を見て、偶然ラッキーアイテムが我が家にあり、偶然それを片付けたかった…ただそれだけのことだ。



120905



title:たとえば僕が


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