その後、このままじゃ目立ってしまうので赤司くんと紫原くんを家に招き入れた。
どうやら二人は昨日帰省してきたらしい。
ボクのたったあれだけのメールで、遠くにいる赤司くん達を帰って来させてしまうなんて罪悪感でいっぱいだった。

「すみません…」

「今の謝罪は何に対してだ?」

「ボクがあんなメールをしたから…」

「だがあれは、本当のことなんだろう?」

「………はい」

淡々と言葉を紡ぐ赤司くん。
これなら桃井さんや黄瀬くんの質問攻めがまだマシだと感じた。

帝光中のとき、赤司くんの説教をよく受けていた黄瀬くんと青峰くんを思い出す。
ギャラリーに集まった女子生徒達が練習の妨げになる、課題を提出していない、試験期間にストバスをしていた…主にそんな理由だったかな。
あまりボクは赤司くんの説教の対象にはならなかったけれど…それにしても久々な感覚だ。

「それで、テツヤはいつから分かってたんだ?」

「中学三年の、全中が終わって少ししてからです…そのときから、二十歳まで生きられないだろうとは言われてました」

「…テツヤが僕達の前から姿を消した頃、か………」

「…はい」

三年生のときの全中が終わったとき、確かな違和感を感じたボクは彼らの前から姿を消し、卒業を迎えるまで彼らを避け続けるつもりだった。
それからボクの病気が発覚したから、決別した彼らに病気のことは何一つ伝えていない。

ウインターカップで誠凛が優勝して、決別した彼らと和解してからようやく病気のことを伝えることが出来た。
…その頃には、もうどうにも出来ないところまで病気は進行していたんだけれど。

「先日、病院に言ったら担当医の人に言われたんです…もう残り僅かだって」

「でも黒ちん、大丈夫なの…?身体は何ともないの?」

「薬も飲んでますから、特に辛いことはないんです…自分でも実感がないんです、あと少しの命なんだってことが……」

ずっと前から与えられてきた薬のお陰か、特に目立った痛みは起こらない。
だけど着実に病気は進んでいる…昔より増えた薬の量がその証拠だ。

赤司くんや紫原くんに合わせる顔がなくて、僕は顔を俯かせる。

「みなさんには一応お伝えしましたが……僕が死んでも気にしないでください。どうせ、いてもいなくても同じようなものですから…」

「バカだね、テツヤは」

僕が言い終わる前に赤司くんの言葉が紡がれて、同時にボクの頭に軽い衝撃が走った。
見上げれば、僕の頭には赤司くんの手が添えられていた。

「確かにテツヤがバスケ部から離れた理由を作ったのは僕達だ。だけど、病気のことだけはもっと早く相談してほしかった」

「赤司、くん……?」

「テツヤが死んでいいわけがないだろう?何も君だけが苦しむことはないんだよ。帝光中のとき、僕達がテツヤを頼ったように、テツヤも僕達を頼ってくれていいんだよ」

「……っ」

その言葉に、胸の奥から何かが一気にこみ上げてきた。
ボクの頬を、何かが伝った。

「もっと僕も早く気付いてやれたら良かったね…」

「いえ…っ、そん、な…ことっ…!」

「黒ちん、オレ達ってそんなに頼りないかなー?」

「ごめ…な、さい…っ…だって、みんな…ボクの、ことなん、て…っ!」

「自分をそう卑下にするな。ボクも敦も、涼太も大輝も真太郎も、誰もテツヤのことを大切に思ってるよ」

赤司くんの優しい手がボクの頭を撫でて、彼の言葉がじんわりと胸に沁みていく。
ボクは溢れ出る涙を止めることはできなかった。



120826



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