ウインターカップを終えて三年生の先輩方が卒業してから、陽泉バスケ部を率いる役目をオレが背負うことになった。
そうして今日も部活を終え、着替えを済ませたところでアツシがやや慌てた声でオレの肩を叩いた。

「室ちん…どうしよう…!」

まるで子供が大人に詫びるような声だったが、いつものんびりとしたアツシからかなりかけ離れたものだった。
何のことなのか、その理由を確かめるべく彼に問えば、差し出されたのは彼の携帯だった。

「黒ちんが…」

誠凛にいるタイガの相棒である、あの影の薄い少年のことか…。
敦の中学時代、同じレギュラーでありながら、敦と比べて随分身長の小さな少年を思い出す。

アツシの携帯の画面には受信メールが表示されていて、どうやら差出人がその彼のようだった。
だけどそのメールの本文を見た瞬間、先程まで悠長に考えていたオレの思考が止まった。

「………これは本当なのか?」

「分かんない…でも黒ちんが嘘つくなんてないから……」

いつになく力の弱いアツシは、彼のメールを否定しているからのようだった。
とにかく今のアツシでは思考がろくに働かないだろう…オレだってどうすればいいか、なんてあまり良い考えが浮かばないんだから。

とにかく真偽を確かめるべく、オレは携帯を出してタイガの番号を探した。
長いコール音の後、プツッと短い音がして聞き覚えのある声がする。

『タツヤ…?どうしたんだよ』

「訊きたいことがある。黒子くんからメールがあったんだが、彼が病気だというのは事実なのか?」

『……あぁ…本当のことだ』

いつになく抑揚のない声は、その重大さを物語っていた。

「そうか…分かった、ありがとう」

電源ボタンを押して、タイガとの通話を終えた。
ゆっくりとアツシの方へ向き直る。
きっと今のオレの表情を見て、アツシはあのメールが本当だということに気付いているんだろう。

「室ちん…どうだった…?嘘だよね……?」

それでもオレが否定するかもしれない、という僅かな可能性を信じたいんだろう…。
アツシの発言に胸が締め付けられる思いになる。
言葉にするのが躊躇われたので、オレは首を横に振った。

「そ、んな……黒ちんが……」

今のアツシの姿は、いつも試合で自陣を守り絶対的守備力を誇るあの姿とは、全く重ならなかった。



120822



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