部活を終えて、部室のロッカーへ戻ってきてみれば携帯のランプが光っていた。
いつもなら無視するんだろうが、今日は何故か手を伸ばしていた。

(………テツヤ?)

帝光中のときに、僕達キセキの世代と同じレギュラーだったテツヤからだった。

ウインターカップ決勝戦、僕の率いる洛山はテツヤのいる誠凛に負けた。
最初から、洛山の優勝を信じて疑わなかったけれど…まさかテツヤの学校に負けるとは思わなかった。
だって彼の学校は新設校…他の学校に勝ったとはいえ、まだ実力は及ばないと考えていた。
テツヤの力を一番引き出せるのは僕達だけだと思っていたけど…それは誤算だったみたいだね。

試合が終わってから、初めて僕は負けたんだと実感した。

またリベンジさせてもらうよ、と言えばテツヤは驚いたように一拍間を置いて、勿論ですと嬉しそうに答えた。
懐かしい感覚が巡る…テツヤのそんな表情を見たのは、帝光中以来だったから。

…そんなおよそ三ヶ月前の出来事を思い出す。
それ以来、テツヤとは会っていないし連絡も取っていない。
そもそもテツヤから連絡を寄越すなんて珍しいけれど。

開いたメールの内容は、テツヤらしい素っ気ない文で構成されていた。



「お、赤司もう帰んの?」

早々に着替えを終えてカバンを持った赤司に気がついたのは葉山だった。

「…急用が出来た。監督には伝えておくが、僕は少しの間部活を休むよ」

赤司が部活を休むのは珍しかった。
しかも彼の言い方から察するに、休むのは一日だけではないようだった。

「え!?どうしたのホントに!?」

「ちょっとね…説教をしなくちゃいけないんだ」

「…?」

抽象的なその言葉に、葉山が聞き返す暇もなく赤司はさっさと部室を出ていってしまった。
会話を聞いていた部員達だけでなく、彼と付き合いの長いレギュラー陣でさえ、赤司の言葉を理解できるものはいなかった。

葉山の近くにいた実渕が彼に確かめるように尋ねた。

「征ちゃん、様子がおかしかったわよね」

「うーん…」

「絶対そうよ…だって、あの征ちゃんが少し焦ってるみたいに見えたんだから」

ただ一つ言えるのは、一年生ながらただならぬ威圧感を放つ、いつも通りの赤司ではなかったということだった。



120820



title:水葬


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