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――例えばクラスで【地味】グループに分類される人と町でばったり出くわす と、普段は必ずあるはずの眼鏡がなく三つ編みの髪もほどかれてゆるやかな ウェーブを描いた黒髪になっていて、ガラリと印象が変わってギャップにきゅんとしてしまったり。

そんな例えばの話は結構身近にあったりする。クラス会など平日ではなく休日に 行われ私服参加の場合、意外と【派手】 グループの人よりも可愛くて注目が集まるだとか。

目の前でニコリとも笑わずに人を見下したような…冷たい目を向けてくる彼が物凄く怖くて、だけど――――綺麗だ。

「何?」

「ただ綺麗だなーって見てただけ」

「ムカつく」

冷たい目のまま私の後頭部に腕を回して二人の唇が合わさる。それは教室に射し込む夕日の温かさよりも断然熱くて溶けそうだ。

大学に忘れ物を取りに戻れば恐らくこの教室だとドアに手を伸ばした。でも、そのまま開けずに宙に浮いた私の右手。

中から聞こえた女の子の声、

「は?俺は好きじゃないけど」

「…!黄瀬君いつもとなんだか様子が」

多分女の子が告白した直後、…振られたのか。

黄瀬…その名字と冷淡に響く声は学科だけではなく大学全体でも有名なモデルをこなしている彼か。

今日ないと困る忘れ物の中身、だけどこの状況じゃ入れない。資料室で時間をつぶしてまた後で出直そう。

宙に浮いたままだった右手を降ろして元来た道を引き返そうとしたら。

「ほら、あんたも俺の中身を好きな訳じゃない。外面だけ」

――――歩もうとした足が、止まった。

「あんたみたいな女の子、心底嫌いっスわ。今の俺をお友達に話したところで信じてもらえないだろうね」

いかにも馬鹿にしたようなその言葉に女の子は何も言える言葉がなかったのか、 教室を抜け出した。

肩がぶつかってよろめく。女の子は私が居た事にも然程気にせず駆けて行ってしまった。

残されたのは、冷めた彼と私。

「あーごめんね。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど」

教室に入って座っていた席の引き出しに残されていた問題集をからっていた リュックサックに詰め込む。

声だけだったけど、普段遠くで見掛けて いた分今の距離の近さに居る彼の顔は冷たさで一杯だった。

それで今に至る訳だけど。

解放されない唇、決してこれが初めてではないし息の仕方だって分かってる。子 供みたいに息を止める事もない。だけど、長く深くの触れ合う以上のキスに限界だってくるのだ。

「……黄瀬…っ」

胸板を叩いて伝えるけど彼は終わりを告げようとしない。愛情なんてお互いに少したりともないキスはほんの少し苦しくて胸が痛い。

「よくついてこれたっスね」

「…頭可笑しいんじゃないの」

クスリ、妖艶に微笑み整った口元についた涎を舌で舐めた彼がまた綺麗に私の目に映った。

「盗み聞きなんてどうでもいい。あーせっかくの誕生日があの女のせいで最悪」

「誕生日だったの?」

「今日で十九。あんたは?」

「…今日で十九」

…沈黙が流れる。まさかこんな偶然あったりするのか。

「やっぱ運命、だったりして」

沈黙を破ったのは彼だった。やっぱって何。そして私の耳に手を伸ばして、

「これ、交換」

私のピアスを器用に外して自分の外したピアスを耳につけてきた。そして先程までつけていたピアスは彼の耳で小さく輝いた。

「黄瀬じゃなくて涼太。ほら」
呼んでみてよ?、甘い吐息が擽る。一体彼は何がしたいのか。分かったらどんなに楽か。

「安物のプラチナなのに良いの?涼太」

「…もう一回」

「………涼太」

ご褒美、と軽く触れ合ってすぐに離れた唇。ますます彼の考えが読めない。読め たところで理解なんて出来やしないだろうが。

「それでもあんたがつけてたものが手に入ったからどんなものでも良いんスよ」

「初対面で盗み聞きしてたような人間のものが欲しかったの?」

「初対面、スか。なまえの事知ってるよ。話した事もある」

あんたあんた、そう呼んでいたからてっきり名前を知らないのだと思っていた。 彼みたいな人間が何故私の名前を知っているのか。話した記憶だってない。話した事があるのなら覚えているはずだし。

「電車の中で変装してた俺に気付いたファンが今日誕生日だよねって騒いでたんスよ。去年の今頃の時間っスかね。…で、 たまたま居合わせたあんたが誕生日一緒ですねって話し掛けてきた」

そう云えば、確かそんな出来事あったような。記憶を掘り起こす。

「俺がモデルなんて事も知らないのか普通に。私も今日誕生日なんですよって。次の駅で降りたんで名前も聞き出せないまま試験日に会場で見掛けて名前を知った。

また話が出来るまでにこんなに時間開いちゃったのはあの時の子なのか確信が持てなかったから。聞き出せば早いけど何だか…恐くて。

で、今日で十九って聞いて確信持てた。 あの時の子で間違いない」

「一目惚れしたんスよ、俺」

真剣なその瞳から、逃げれなかった。

「何でそんなに綺麗なの」

始まる、恋の瞬間。

…――――貴方の耳元にあるピアスがいつまでも私の隣で小さくも星のように輝いてくれるなら、いつまでも側にいよう。

…――お誕生日、おめでとう。
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