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私と涼太は、所謂幼馴染みである。 お互いの事は自分よりもよく知っていると言っても過言ではない程、私達は長い 時を一緒に過ごして来た。 だからだろうか。 私は小さな頃から決めている事がある。

「イケメンとなんか絶対結婚しない」
「は? なに言ってんの」

つーか無理っしょ、相手が余計な一言を加えたので、傍にあったバスケットボー ル型のクッションを顔面…めがけて投げ た。 イケメンと言うのはとても疲れる人種だ。 人の都合に合わせて自分を変えなきゃいけないから。 だからきっと本当の性格がどんどんどんどん歪んでいくのだ。 目の前の彼のように。 まるで魔王様のような涼太が私に見せる顔は、モデルの時や女の子に見せる時、 バスケ部の皆に見せる顔とはとてもかけ離れている、陰の部分。 舌打ちとか平気でするし毒を吐くなんて 常日頃。 その綺麗な顔を歪ませて、心底不機嫌に 接して来る。 嫌われているんではないかと思ってそっとしておけば「避けてんじゃねーよ」と本気で怒られてしまった。 本当イケメンってめんどくさい。

「ところでイケメン代表」
「なんスか凡人代表」

うっわ腹立つ。

「今日はお誕生日ですが、ご予定は?」
「まずはおめでとうございますだろダメ女」
「うるさい甲斐性無し」
「おめでとうございます、は?」
「……ほめめほうもまいまふ」
「よし、良い子」

片手で顔を掴まれ、タコの口をされながら言わされる。 女の子の扱いじゃない! 解放され、ハァと溜息を吐く。 大方部活も仕事もオフになってしまっ て、女の子達とデートするのもめんどくさいから私を呼んだんだろう。 まぁご飯たかられても大丈夫だ、誕生日プレゼントを用意してない代わりにお金は下ろして来た。 イタリアンだろうがフレンチだろうが奢ってやんよちくしょう。

「私、顔は気にしないから性格の合う子と結婚したいなー」
「へーふーん」

私の周りの性格の会う子といえばあの子しかいない。 まぁ彼は誰とでも合うから私とだけ、と 言ってしまうのは違うけれど。 この間も部活終わりにたまたま一緒になって、そのまま送ってもらったんだっけ。 楽しかったなぁ。 今思うと彼もイケメンの部類だよな。

「でもまぁ……悪くないイケメンもいるよね」

思わず口に出した言葉を、涼太は聞き逃さなかった。
「悪くないイケメンて?」
「最近同じクラスの子の良く遊ぶんだけ ど。すごく良いイケメンで……。涼太知ってると思うよ、真太郎の相方。お好み焼き屋さんで会ったって聞いたよ」
「高尾っち?」
「そうそう、和成! あの子楽しいよ ねー」
「へーふーん」

さっきと同じ返事だったけど、ベッドから体を起こし胡座を掻いてこちらを見る。 手にはさっきのクッションが抱えられていた。

「好きなの? 高尾っちの事」
「は?! 何言ってんの?!」

真剣な顔をされてしまってドキッとした。 嫌いではない。 すごく良い人だと思うし、さりげなく気 遣い屋さんだし、頑張り屋でもあるし、 そういやこの前自分で寂しがり屋さんだって言ってたっけな。 なんでも屋さんか。 好きか嫌いかって言えばそうだな。

「好きかなー。結婚したいタイプではある」

なぁーんてな、と和成の真似をして見せると、目を大きく見開いて驚いていた。 ちょっと、突っ込んでよ。 私がスベったみたいじゃん。 かと思ったらスッと目を細くした。

「じゃあ、俺が確かめてあげるっスよ」
「へ? 何を?」
「向こうの気持ち」

言ってることが分からないと言おうとしたら、徐にスウェットからケータイを取り出した。

「涼太まさか」
「もしもし高尾っちっスか? お疲れっス」

なんで涼太が和成のアドレス知ってるの!? あ、でも二人のコミュニケーション能力ならアドレス交換なんて造作もない事か……。

「ちょっと代わりなさいよ私だって知らないのに!」

全身でひったくろうとするのに片手であしらわれてしまう。 こういう時の体格差があると不利であ る。 慣れっこなんだけどね。

「ん、そーそー。今俺んち。俺の部屋。 なまえ? 声、聞こえなかったっスか?」

電話から、いつもより少し低めの和成の声が聞こえた。

「和成! 私にも連絡先教えて! 和成!」
「 なまえはアンタの事少し気になってるみたいなんスけど、高尾っちはどうなんスか………………ふぅーん」
「かずなりぃー!」

うるさいとデコピンされた。痛い。 不満を言おうとすると、指を立ててにっこりと営業スマイルをされた。 女の子に向けるあれだ。

「……そうなんスか。だけどそれは諦めて欲しいっス。なまえは今日から俺の彼女なんで」

そう言うとぶちりとケータイを切ってポイとベッドの上で投げた。

「ちょっと! ふざけんnごふっ!」

涼太は両手で私の顔を包み、頭突きをされそのまま固定する。

「ハァーーーーーーーーー」
「なに」
「秀徳は緑間っちが行くような頭良くて生真面目な奴ばっかりだから安心してた のに……とんだハイスペックがいたもんっスよ」
「まるで和成が不真面目だとでも」
「高尾っちはすげーっスよ。頭いーしバスケ上手いし性格いーしかっこいーし何 なんスか。大体なまえもなまえもだよ」
「あ、はい」

珍しく涼太が他人を褒めているので驚いて間の抜けた返事をしてしまった。 おでこは未だにくっ付いたままだ。

「完璧過ぎなの好きじゃないかなって思って冷たくしたのに意味わかん ね……。ベッタベタに甘やかしたくて仕方なかったのに他の男に目移りとかなんなんスか」
「え? 涼太? どうしたの?大丈夫?」
「あーもう無理っス。俺、なまえの事超好き。好き好き大好きっス」

情けなく眉を下げて、おでこをぐりぐりされた。 今日の涼太は少しおかしいな。

「ねぇ、本当に大丈夫?」
「なにが」
「あー、なにがって言われると……頭が?」 「ねぇ、返事は?」

返事。 返事……。

「涼太」
「ん?」
「お誕生日、おめでとう?」


【16歳の魔王】



魔王様は、どうやらヘタレのようです。

「あーもうなんでここまで言って分かんないんだよ馬鹿!馬鹿なまえ!」
「ちょっと! 何度も言わないでくんない!?」
「もういいっスよ! 絶対高尾っちには渡さねぇ!」
「ねぇ、それより和成はなんて言ってたの?私明日から学校行って気まずくならないよね?ね?」
「内緒っスよ」
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