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6月17日の夕方。突然押しかけるのは悪いとは思ったが、どうしてもやりたい事があって自宅に押し掛けた。 意外とすんなり入れてくれた黄瀬に感謝しつつ、リビングにちょっと多めの荷物を置かせて貰った。

「えっと…なまえちゃん?」

「あ、今日泊まるからね。」

「え!?」

やっぱり何も言ってなかったからか、少し慌てる黄瀬に申し訳ないような気持ちが湧いてくる。 しかし黄瀬はどうやら寝室が汚い事しか気にしていないようで、「俺今から片づけてくるっス!!」と慌てて片づけに行った。 …つまり、私が泊まるのは別にいいって事なんだろうか。泊まる事より寝室が汚 い事を気にしたって事は、そういう事なんだろうな。多分。

こうやって押しかけて、迷惑なのは分かってる。特に彼女ですらない私がいきなり押しかけて、更に勝手に泊まる宣言するなんて…って分かっているつもり だ。 けど。

「…一番に祝いたい、し。」

黄瀬が寝室で片づけしている音を聞きながら、呟いた。

…そう、明日は黄瀬の誕生日。 そして一番に誕生日を祝いたくて、こんな風に押しかけた。メールや電話でもいいけど、黄瀬の事だから23時辺りから繋がらなくなるだろう。だって黄瀬だし。 モデルだし。 去年はそれで結局一番に祝えなくて、悔しい思いをした。だから、今年こそは… と。でも、ちょっと行き過ぎた行動だったかも知れない。 もう後悔しても、遅いけど。

てか、黄瀬大丈夫か?部屋から物落とす音とか何かがぶつかる音、更には黄瀬の 「いたっ!」とか言う声まで聞こえてきている。 何だか心配になってくるんだけど……もしかして、片づけ手伝った方がいい?でも寝室だし、見られたくない物もあるか も知れないし。 うーん、と悩んでいたら黄瀬が戻ってきた。…おでこ赤いよ…大丈夫?

「何そんなに慌ててたの、もしかして青峰とかが好きそうなグラビアとかそっち系の雑誌でもあったの?」

「な、何言ってるんスか!!そんなのないっスよ!」

いや、それはそれで健全なる男子高校生としてどうなんだろう…とかちょっと思ったけど、黙っておいた。 結局泊まる事自体は問題がないらしく、 黄瀬と一緒に晩御飯作ったりテレビ見たりゲームしたり。 グダグダしながら過ごせば、もう22時を回ってた。

「黄瀬、先にお風呂行って来たら?」
「へ?いや、先になまえちゃん入った方がいいっスよ。俺長いし。」

「…女子か。」

「モデルっスから。」

あぁ、うん。そうですね。分かったから何その無駄な決め顔。カメラなんて何処にもないよ。 まぁいいか、と思って立ち上がった時、 黄瀬の携帯が鳴り始めた。多分メール。 私の予想より、一時間も早いとは……流石モデル。次々と来るメールをチェックしている黄瀬に「じゃ、先入るねー」と 声をかけて風呂場へ向かった。

脱衣所で服を脱ぎながら、今更ながらに黄瀬って一人暮らしのはずだよな、と考える。 一人暮らしにしては広すぎるでしょ、この部屋…。まぁ黄瀬はモデルとして働い ているんだし、少々一人暮らしにしては広すぎる部屋に住んでいてもおかしくはないか。

と言うか、黄瀬のお風呂が長いのなら私早く出ないと0時に間に合わなくない?… 仕方ない、急ごう。

* * * *

「黄瀬ー、上がったよ。」

「随分早かったっスね…。」

「まぁね。」

そりゃ急いだし。黄瀬に「ほら、早く入ってきなよ」と言って半ば無理矢理脱衣所へと追い込んだ。 どれだけ長いか知らないけど、0時に間に合わなかったら嫌だし。てかそれは私が困る。

さて、長いって言ってたし……何して待とうかな。テレビをつけてみたけど、特に見たいと思える番組もない。 何かDVDでも借りてくればよかった…。 どーしよっかなぁ…と悩みながら取りあえず自分の持ってきた荷物を漁ってみた。分かってた事だけど、やっぱり暇潰しできそうな物はなかった。 今寝たら0時に起きれない自信しかないし、かと言ってこのまま何もせずにぼーっとしていたら確実に寝る自信がある。 仕方ないので自分の携帯を開いてみたが、特に何もする事がない。誰かに電 話…こんな夜遅くに誰にするんだよ。 と此処まで考えて気づく。

…あれ、黄瀬の携帯さっきから鳴ってなくない?

てっきり0時まで鳴りっぱなしになると思ってたんだけど…これなら、泊まりに来るんじゃなかった。 自分の行動をまた少し後悔しながら、 メールを作成して森山先輩に送り付けてみる。何かあの人なら素早く反応してく れそう。 想像通り1分後には返事が来た。すげぇ早い。 暫く下らないメールを続けて、「そうい えば私、今黄瀬の家なんですよー」と 送った所で黄瀬がお風呂から上がってき た。 あれ、早くね?と思って携帯確認したら結構時間が経っていて、ビビった。てかもうすぐ0時じゃん!もう5分もないんだけど!

「ちょ、黄瀬。ちょっと待って!」

「へ?いや、髪乾かさないと痛むんスけど。」

「後で私がやるから!」

髪を乾かしに洗面所へと行こうとする黄瀬を慌てて引き留めて、隣に座ってもらう。 黄瀬が「いや、寧ろ俺がなまえちゃんの髪乾かしたいくらいなんスけど…」と 私の髪を見て言うのは無視だ。 黄瀬より女子力低い事くらい知ってる わ!ほっとけ!

って、そうじゃない。壁に掛けられている時計をガン見する。黄瀬の腕を掴みながら。

あと、1分。

「…どうしたんスか?」

「いいから。」

あと、30秒。

「…あの、」

あと、10秒。

「え、と」

あと、1秒。

「黄瀬、誕生日おめでとう!」

「え、うわっ!?」

秒針が12に重なった瞬間、抱きつく勢いで黄瀬にタックルをかましながらお祝いの言葉を言った。 その時聞こえた黄瀬の声に「ちょっと失礼じゃね?」とか思ったが、まぁ誕生日を迎えたばかりの黄瀬にそんな事を言うのもどうかと思うので言わないでおいた。 タックルの勢いで黄瀬を下敷きにしてるけど気にしない。…それより、さっきの 「うわっ!?」て声以降何の反応も黄瀬がしない事の方が気になるんだけど。 「…黄瀬?」と声をかけたら、「…もしかして、なんスけど…これだけの、為 に?」と言われた。

「当たり前じゃん。今年こそは0時きっかりに、一番におめでとうって言ってやるって去年から決めてたんだから。」

黄瀬の上から退きながら言えば、今度は黄瀬から私に向かってタックルされた。 ちょっと、地味に痛いんだけど。…と、 文句を言おうとしたら「…ありがとう、 なまえちゃん」と言われて、口を閉じておいた。 モデルの笑顔の破壊力半端ないとだけ言っておく。 それからプレゼントを渡したり、髪の毛乾かしたりして、気づけばリビングで雑 魚寝してた。 起きて携帯確認したら、森山先輩からのメールの量が半端無くて、本気で拒否するか悩んだのは秘密で。

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