贈る相手を思い浮かべて買い物をする時は、凄く幸せな気持ちになれるのでなまえはプレゼントするのが好きだ。
しかし年下でまだ高校生でもある彼氏、黄瀬の誕生日プレゼントは中々思い付かなくて、正直困りきっていた。
ファミレスで夕食を食べた後に自宅に招きビールを飲みたいのを我慢して、一緒にコーヒーを飲みながら隣の黄瀬の様子を盗み見れば、呑気にマグカップをふーふーしている。
「あのさ、涼太」
「ん?」
いや、やはりサプライズを狙いたいと考え直したが仕事が忙しかった為、既に誕生日は明日に迫っていた。
洋服や靴は腐る程持っているようだし、アクセサリーは普段ピアス位しかしているのを見ない。
財布は高校生の分際でブランドものだが、特にブランド好きではないらしい。
あーもう悩むのに疲れた、制汗スプレー詰め合わせでもあげようか、なんてヤケクソ気味になってくる。
「なまえ?眉間にシワ寄ってるけど…なんか悩んでる?」
「え、あ、んー…」
なまえのことを良く見ている黄瀬には隠し事が難しく、これは素直に聞くしかないと覚悟を決めた。
「涼太、誕生日に何が欲しい?」
俯いてボソボソと聞いてみると一瞬間が空き、直ぐに片手を絡め取られる。
「誕生日プレゼント…っスか」
「何でも良いはナシで」
そう言うと黄瀬は小首を傾げなまえと繋いだ手を自分の頬にあてながら考えているようなので答えを待ってみる。
「オレ、人混みってあんまし好きじゃないし」
「…うん」
「明日は昼間学校だし。部活はないけど」
「…うん」
「で、」
「で?」
プレゼントの話からなんか逸れてますけど、と突っ込みたいのを堪えて続きを促した。
「……なまえが欲しい」
と言った途端に「あ、」と小さな声が漏れて、みるみる耳まで赤くなってゆく。
「…涼太?」
「なんか色々と言葉が抜けちゃって、オレ、ただのやらしー奴みたいになってる!違うんス!いや違わないけどっ」
「まぁまぁ、落ち着いて」
「いや、あの、明日は学校で一緒に居れる時間が少ないっしょ?だから出来るだけ一緒に居て欲しいって言いたかっただけっス!」
「あ、成る程ね」
「べべべ別に下心があるって訳じゃ、いや全然ないってのは嘘になるけど」
随分抜け落ちた部分が多いとは思うが、しどろもどろな彼は何だかウブで可愛いなぁ、なんて口元が緩み出していた。
「プレゼント、そんなんで良いの?何かアクセサリーとかさ、」
「大好きな女の子と誕生日を一緒に過ごせるって、すげー幸せだし贅沢だと思うんスけど」
「……」
真顔でよくそんな恥ずかしいことを言えるな、と黙りこむとダメっスか?と全身でションボリ感を醸し出す。
「ダメな訳、ないし。私も涼太と一緒に誕生日を過ごしたい、よ」
「マジっスか?」
やったー!と叫び、切れ長の琥珀色の瞳をキラキラと輝かせるのを見れば、もっともっと喜ばせてあげたいと思っていた。
そんな時、壁にかかる時計を見れば二本の針は真上を指し示す数秒前。
ぐだぐだしている間にこんな時間になっていたが、何となく黄瀬もこれを望んでいた気がした。
「涼太、ハッピーバースデー。今日は私の時間を全部、涼太にあげる」
「…ありがと。一番最初になまえに祝って貰えて嬉しいっス」
「あと、」
「え…、な!」
クイッと黄瀬のTシャツの首の部分を下げて、鎖骨の下辺りにちゅうっと吸い付く。
「おまけで私もあげるから、これは予約の印ね」
「…キスマークとか。本当に小悪魔っスね、なまえは」
なんかもうオレ色々と盛り上がるんスけど!と騒ぐ黄瀬を黙らせる為に触れるだけのキスを唇に落としてやった。
効力はあったようであっさりと大人しくなりなまえの肩に顔を埋めて、グリグリと甘えるように押し付けてくる。
「あー、もう、本当に…大好き」
「私も」
本当はもっとやらしいキスをしてやろうかと思ったけど、それは今夜のお楽しみ、と密かに口角を上げてサラサラと流れる柔らかな金髪を愛でていた。