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今年の6月18日は平日だ。そして俺の誕生日でもある。学校行ってバスケやって、モデルやって学校行ってたら誕生日なんて忙しくて忘れてしまいそうなものなのだが、家のカレンダーの6月18日にはでかでかと「黄瀬くん誕生日!」と書かれているために忘れようにも忘れられなかったのだ。決して楽しみにしていたわけではない、断じて!その辺勘違いしないでほしい。しかし誕生日が迫っている今、それに気付いてしまった以上は期待してしまう。だが先に言った通り、18日は平日。風呂上がりのなまえの髪に顔を埋めて同じシャンプーの匂いを堪能することは疎か、誠凛に通うなまえには会うことさえできないかもしれない。くそ、そんなんで何が誕生日だ!




6月18日午後6時20分。今日1日、何事もなく、平和に、普通に過ごしてしまった。勿論、学校では何人かに「おめでとう」と声をかけられた。人気者だから当たり前なんだけど。でも違う。俺が聞きたいのは「誰か」からのおめでとうじゃなくて―――、耐えていた何かが爆発しようとしたその時、玄関のチャイムが鳴った。…助かった〜。さみしくて泣いちゃうとこだった、俺ってホラ、さみしがり屋さんだから。インターホンを確認せずに玄関へ直行。勢いよく扉を開けば「お誕生日おめでとー、黄瀬くん!」そこにはケーキの箱と大きな紙袋を提げたなまえらしき人物がいた。…え?俺ついに幻覚が見えるようになった?自分の目が信じられず訪問者を上から下までまじまじと見つめる。「えっなになに、もしかして私太った!?丸くなってる!?」間違いない、なまえだ。おもむろに手を伸ばすと、黙って頬を差し出すなまえにうれしさと安心感が募る。しばらく頬の肉を堪能した。


「びっくりしたでしょ!」

「びっくりして死にそうになったっス」


リビングの隅に荷物を下ろしながら、そんなに!? といちいち驚く彼女の仕草にすら感動してしまう。本来なら今日、彼女がこの部屋に来ることは叶わないはずだったのに。叶わないと思ってたのに。なかなか落ち着かない俺を不審に思ったのか、なまえは少し不安そうな顔をして「あれ…もしかして何か用事あったりした?」おずおずと尋ねてくる。………ん?いやいやそんなわけないじゃん!? 一人寂しく過ごすつもりだったっスよ!? 誤解を解くべくなまえの肩を掴み、正面から向き合うと…たまらなくなってぎゅっと抱き締めてしまった。戸惑う様子のなまえの吐息を感じて、更に満たされる。


「今日は来れないと思ってたから、夢なんじゃないかってまだ信じられてないんスよ、…来てくれてありがと」


体を離してなまえの顔を覗き込めば、彼女はにやにやと満足気な顔で「来てよかった」と微笑んだ。その表情に心臓が締め付けられ、ああほんと、だいすきだなあって気持ちが膨らんでいく。早速ケーキの準備をしようと意気込むなまえの手首を掴み、制止する。訳がわからないといった顔をするなまえとの距離を詰め、


「ねえ」


折角今日なまえが会いに来てくれたんだもん、もっと近くに行ったって良いでしょ?更にぐぐっと顔を近付け――ほんと睫毛が触れちゃうような距離で囁いた。


睫毛が触れるくらい
近くにおいで


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