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今日はお昼を一緒に食べて、部活が終わるのを最後まで待ってから一緒に帰って、帰り道の途中でプレゼントを渡して、それからそのあとは、

「おめでとう、って言って」

私の声は激しい雨音にかき消された。なーんで雨なんて降っちゃうかなあ。空気よめよ今日くらい。梅雨前線さんが日本の上空を占領しているのだから雨が降ることくらい予想できたけど、私はあえてしなかった。大体なんで黄瀬は6月に生まれてきたんだろう。こんなこと言ったら「理不尽っス!」って泣かれそうだけど。てるてる坊主もいっぱい作ったのに、ね。

「なんでそんな顔してんスか」
「だって、雨」
「まーしょうがないっスよ梅雨だし」
「・・・傘は?」
「あ」

雨なんて降らないと決めつけていた私は傘を持ってきていない。黄瀬も傘は持っていないようだ。さて、どうやって帰ろう。辺りはもう真っ暗で全然人気がない。雨音だけがやたらと響く。プレゼントを入れた紙袋がくしゃりと濡れた。かばんなんてそっちのけにして紙袋を強く抱き抱える。教科書ぐしゃぐしゃになっちゃっても知らない。もういいや。

私のてるてる坊主は昼までしか働かなかったらしい。朝は降ってなかったのに、放課後に降り始めやがった。サイズが足りなかったのかな?それとも数?もんもんと考えこみながら、滴る雨粒をたどる。傘を求めて生徒会室へ向かう黄瀬の後をついていった。雨のせいか、どうしても重苦しく感じてしまう。

「お借りしまーす、誰もいないけど」
「私も借りますー」
「なまえは借りなくていっスよ」

一緒に入ろ、と笑う黄瀬を見て、紙袋濡れちゃわないかなとちょっと考えてから私も笑った。




「雨だねー」
「よく降るっスね」
「足びちょびちゃだうわあああ」
「がまんがまん」

私の靴の中はもうぐじゅぐじゅだ。うえ気持ち悪い。おっそろしい雨だ。ぱんつまで濡れてまうわ。水溜まりを避けるのなんてもうやめて、濡れるのを構わずに歩く。黄瀬の金髪が雨できらきらと光った。いいなあ。小さく息を吐く。勇気を出して「このあとどうすんの」と聞けば「帰るしかないっスかねぇ」と返された。えーがっくり。でもまあ、そうだよね。だってこんな雨じゃどこにも行けないし。仕方がない、ね。あっという間に家の前に着いて、紙袋をぎゅっと握った。袋はもうびしょ濡れで、ぐしゃぐしゃで。

「そんな顔すんなよ」
「え」

なにを、と顔を上げた瞬間、視界いっぱいにきらきらが広がった。それはまるで暗闇に色味が差したようで。一瞬だけ私の唇を塞いだ彼は、いたずらっぽく笑う。

「なんか言うことないんスか」
「・・・おめでと」

つられて笑った私を見て、黄瀬は嬉しそうに頭を撫でた。そうか、最初から笑っておめでとうって言えればそれで良かったんだね。

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テーマ「人外ファンタジー」
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