「大変って簡単に言葉で表せないぐらいですっ、夢野さんは、今も泣いてるかもしれないですっ!!心配ですっ!」
僕がぐっと握り拳を作って言えば、千石先輩はウンウンと頷きながら、僕の頭を撫でてきた。
うぅ、ヒドいです!
僕のことを子供扱いしているみたいで、心配して力説してしまった分恥ずかしくなる。
「……壇くん、壇くん、ところでさ、室町くんどこ行ったか知らない?」
「室町先輩なら、夕食まで練習がないからって、一階でパソコンを触ってくるって……」
「あぁ!確かパソコンルームみたいな部屋があるんだっけ。このペンション」
変わってるなぁ、なんて呟きながら、千石先輩は「…………やっぱり室町くん自体は詩織ちゃんに気づいてないのか」なんて呟いていた。
よくわからない。どうして室町先輩と夢野さんの名前を一緒に言ったんだろう。
僕は頭を傾げてから、山吹では唯一三人同室になった部屋を見回した。
千石先輩と僕と、室町先輩の荷物が部屋の隅っこに固まっている。
さっき千石先輩に話した通り、室町先輩は今この部屋にはいないのだけど。
部屋にある大きな窓を見れば、もう雨は小雨になり始めていた。
さっきまで夢野さんが怖がっていた雷が鳴っていたけれど、それも今は綺麗さっぱりない。
「……恐いですよね」
ぽつりと漏らしてしまった台詞は、千石先輩には聞こえなかったようだ。鼻歌を歌って携帯電話を弄っている先輩にホッと息をつく。
テニスの練習が行われていたときに、僕と乾さん、柳さんのお手伝いをしてくれた夢野さんは、本当に優しそうな雰囲気の方で。
ちょっと……いえ、だいぶ独り言はぶつぶつ言っていて変わった人だなぁなんて思っていたけれど。
それでも、普通の人だった。
なのに、あの奇跡の少女だったなんて。
微塵も感じなかった。
「……すごいですー、ですがっ」
「ん?何か言ったかい?壇くん」
「い、いえっ!なんでもないですっ」
僕なんかが心配しても余計なお世話かもしれないけれど、夢野さんはどこか無理して笑ってるんじゃないのかなって思った。
…………そう。
夢野さんの泣き顔を見たら、年下だとか、他校だとか関係なく、何か力になりたいってそう感じたんです。
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