「……あれ?君は……マネージャーではなかったよね?」
山吹のマネージャーの子とともにドリンクを配っている夢野さんに近付いてそう尋ねた。
一瞬彼女は躊躇ったような表情を浮かべてから「……な、成り行きで?」と苦笑いする。
「……えっと」
「あぁ、ごめん。僕は青学三年、不二周助だよ。……ふふ、その成り行きっての興味あるなぁ」
ニコリと微笑んで見たら彼女は「おふっ」と可笑しな音を漏らした。
その後小声で「今気付いた。テニス部にはイケメンさんが多いらしい」と呟いていたので「ふふ、ありがとう」と返せば、さらに彼女の口から変な音が鳴る。
くす、本当に変わった子みたいだね。
「……不二?……っ、何をしている?」
「あぁ、手塚。……どうやら夢野さんが跡部に言われてドリンク配ってくれているんだ」
振り向いたら、手塚が眉間に皺を寄せていた。
いつもの無表情にほんの僅かな変化だけれど、僕にはすぐにわかる。
僕の後に試合が始まったはずなんだけど、さすがだね。もう終わったんだ。
「え、えぇっと、て、手塚さん?ど、どうぞ」
睨まれていると思ったのか、慌てて夢野さんが手塚にドリンクを差し出した。
へぇ……、今の顔、写真に収めておきたいぐらいだったよ。「……そうか」なんて呟いて夢野さんからペットボトルを受け取る手塚は、もう既に僕のことを視界から消している。
ふふ、そんなに見つめるから……ほら、夢野さん怖がってるじゃないか。怒ってる?!とか不安そうな顔をしている夢野さんが少し可哀想に見えた。
「……ところで、夢野さん。あそこに置いてあるドリンクって、乾が作ったやつかな?」
「え、あ……確か乾さんが乾特製だって言っていましたから、そのはずです」
「ふぅん。新作かな。じゃあ僕はこちらを貰うね」
「……は、はい」
なんとも言えない色をしているドリンクを籠から取り出して口につける。……うん、美味しい。
横から心配そうな夢野さんの視線を感じたけど、大丈夫だよと口にする代わりに微笑んだ。
「あーっ、不二ー!夢野ちゃんが配ってるドリンクなら俺も飲む飲む〜っ!もーらいっ!!」
「「あ」」
試合を終えたのか、走ってやってきた英二が僕の手からドリンクのペットボトルを奪って、勢いよく飲み干す。
「こ、こらっ、英二!人のを取るなんてはしたないぞ!」
すぐ後ろから困り顔の大石もやってきていた。
「……っ、に゛ゃ〜っ?!!!」
全力ダッシュで水飲み場まで走っていった英二。
大石や集まってきていたタカさん、桃、海堂の口々から出る「……い、乾汁が紛れてる……?!」というセリフに耳を傾けながら、夢野さんはポカンと口を開けて、英二が小さくなっていった方向を見つめていた。
……今はテニスに集中したいから練習に戻るけれど、夕食の時にまた話が出来たらいいな。
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