テニスコートは四面並んどる。筋トレなんかつまらんわぁ思てたとこやったから、コシマエんとこの先生らしいおばあちゃんがそう言うてくれて、ワイめちゃ嬉しかった。
「コシマエー!勝負やー!」
「…………だから、えちぜんだって言ってるんだけど。誰だよ、コシマエって」
「ええから、早よ試合しよー!!」
はぁっと息を吐くコシマエはそのままワイを無視してどっか行ってしまう。なんでやー?!って叫んでたら、白石がワイの襟首を掴みよった。
「なんでや、白石!ワイ、コシマエと勝負できる聞いてここ来たんやで?!」
「わかったわかった。金ちゃん、順番やから。そやな、謙也の試合が終わったら金ちゃん、立海の真田くんと試合やわ」
「真田って、あの老け顔のにーちゃんやろ?!強いん?」
白石が苦笑しながら「強いで」と答えてくれたから、納得した。
落ち着いて話し聞いたら、コシマエとも順番が回ってくるらしい。それならまぁえぇ。
「謙也ー、ワイ試合したいから早よ終わらせてなー!」
「任せとき!スピード勝負で決めたる──」
「謙也さんー、負けてもえぇっすからー」
「──財前ーっ!お前後で覚えとけよー?!」
ワイが今から試合始めようとしとった、謙也に声をかけたら、光が横からめんどくさそうに声をかける。
銀さんの説明によると、Aコートでは青学の河村と氷帝の樺地。Bコートは山吹の千石と立海の柳生。Cコートでは氷帝の芥川と立海の丸井。Dコートが謙也と山吹の東方とかいう人らしい。
まぁワイ名前聞いてもようわからんけど。
それで、ワイは次のCコートで真田と勝負や!と気合いいれたところで、違和感に気付いた。
あれ、ワイ、ラケットどこやったんやろう。
ずっと背負っとったつもりやったんやけど。
「銀さん、どないしよー?!ワイの宝もんがぁ」
大声を上げれば、銀さんだけじゃなく光や白石、近くにおった小春とユウジも反応してくれる。
あぁ、せやけど、ワイほんまどこやったんやろう?!いつも肌身離さず大事にしとるもんやのに!
「……あ、金ちゃん発見。良かった良かった、練習試合してるみたいだし、目立たず手渡せそうで……」
そんな時や。
ブツブツと独りで喋りながら、さっきペンションにおったねぇーちゃんが近づいて来たんは。
ねーちゃんの手にはワイの宝もん!
「お、おおきにー!!ねーちゃん、わざわざ届けに来てくれたんかぁ?!ほんま、ねぇーちゃん、ええ人やなぁ!!」
感極まって大声で叫んでねぇーちゃんに飛び付いた。
ドタン!って勢いつけすぎたんか、ねぇーちゃんはワイを支えきれずにそのまま倒れる。
やから、ワイもねぇーちゃんと一緒に転がってもうた。
「きき、金ちゃん?!何やっとんのや!夢野さん、だ、大丈夫か?!」
……その後響いた白石の慌てたような声が、ワイの声より大きかったんは全く気づかんかった。
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