いきなりペンション三階の廊下で立ち往生することになっていた。
というのも、昼食時に跡部様と鳳くんにヴァイオリンについて誉められ、酷く狼狽えた挙げ句に動揺した。何故ヴァイオリンのことが話題に出るんだ!と焦ったが、当たり前である。
私が泊まっている部屋は防音じゃない。
なんて傍迷惑な練習をしてしまったのだろうと平謝りした。
そして、榊おじさんが言っていた練習にうってつけの防音室の場所を確認し、そこに向かうために廊下に出たのである。
ここで冒頭の呟きに戻るわけだ。
「……敢えて二回言う。どうしよう」
私の右手にはヴァイオリンケース、左手には木で出来た大きめのラケット。
記憶を辿れば、私にはこれが誰の持ち物かは思い出せた。
あの猪タックルをかましてきた無邪気な少年──金ちゃんである。
「……うん、毒手の人への盾に私を使用した時だよね」
毒手の人は私が名乗った後に白石蔵ノ介だと教えてくれた。金ちゃんは遠山金太郎。挙動不審な金髪さんは何やらたくさん噛んでてよくわかんなかった。でも何故か苗字に拒否反応が出たので、敢えて聞き返さなかった。たぶん正しい選択だったと思う。
「…………届けよう」
その答えにたどり着いたのは数分考え込んでから。
一度は管理人さんに届けようかななんて思ったけれど、よくよく考えたらテニスラケットが無ければテニス出来ないんじゃないだろうか。
それは金ちゃんが可哀想だ。
だって彼らは遙々関西方面の地からやってきているというのに。
気合いを入れて、私はテニスコートを目指す。
この時
私の頭の中には、善哉さんのこととかelevenさんのこととか切原くんのこととか……とりあえず、色々綺麗さっぱり抜けていたのだった。
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