へぇ、そういうことか
ドリンクバーに走った裕太と金田の背中を見つめながら、注文をし終わった柳沢が目の前でノムタクと話している会話に耳を傾ける。

「いやぁ良い後輩を持っただーね!」
「そうだなー。なんか皆して先輩の飲み物取りに行ってくれるとは……」
「はー、他校の二年もとは珍しいだーね」

──そう。珍しいよね。
特に四天宝寺の財前とか。氷帝の日吉とか。立海の切原とか。
彼らはもっと自由な感じがしたし、わざわざドリンクバーに先輩らの飲み物まで確認して自分から行くなんて……。自分の分だけ取ってきそうな日吉は置いといて、切原と財前はむしろ先輩を使いそうなのに。

不動峰の伊武と神尾も、橘の分は持ってくるだろうけど。立ち上がろうとした他の二年の分も俺らが取ってくると声を上げていたのが隣だったから聞こえていた。

「……クスクス、そういうことか」

ふっと口元が緩む。
二年の彼らが考えてることが分かった。

「……んふっ、木更津くんは何か感づいたんですか?」

「んー、どうだろう。観月の方がわかってそうだけど」

「さぁどうでしょうね。ですが、僕が彼らのシナリオ通りに踊る人間だと思われているのなら、心外ですよ」

「クスクス、確かに」

観月の台詞に頷いて、ふっと亮を見る。
視線がじっと夢野を追いかけてて、思わず口角が上がった。


「……よし、全員飲み物が揃ったか」
「アーン?おい、そこもちゃんと席につけ」

手塚と跡部が立ち上がって乾杯でもするつもりだろう。

「油断せずに……楽しもう」
「ここでもお前……それを使うのかよ」

二人がそう言って、僕たちは皆「カンパーイ」と脳天気な声を上げた。
氷帝のメンバーは夢野の近くだからか、余裕でグラスを重ね乾杯を交わしている。

……それってさ、ずるいよね。

だから、僕は席を立って夢野のところまで歩いた。同時に通路向こうから亮もグラス片手に持って佐伯と歩いてきたから、考えることは同じかーと笑ってしまう。
また立海の席からも丸井が同じことをしようとしていたみたいだが、彼は気配を感じて起きた芥川に捕まっていた。

腕を伸ばして乾杯している菊丸と桃城を見ながら、そっと夢野へと手を伸ばす。

「夢野、乾杯、僕も」
「あ、淳さん」
「夢野、俺もっ」
「あはは、俺もお願いできるかな?」
「亮さんと佐伯さんまで……は、はい、勿論ですけどもっ」

乾杯とコツンと触れ合ったグラスに目を細める。

あぁ……と吐息が漏れた。
指先でもないし、体の一部でもないのに胸が高鳴るこの想いに名前があるなら教えて欲しい。

僕の後にグラスを交わしていく亮と佐伯を見ていたら、不意に向日が「そういえばお前木更津二人とも下の名前で呼んでんのな」と口を開いていた。

「へ?あー……木更津さんって言ってたら、なんかややっこしいなぁって」
「でも、宍戸の下の名前言ってみろよ」
「……あ。亮、でしたっけ?」
「ぶっ!いきなり呼び捨てにすんな!」

慌てふためいた宍戸の様子に亮の眉間に皺が寄っている。

「んー……でも、ほら。私の中で宍戸先輩は宍戸先輩というか……もし下の名前で呼ぶことがあっても、宍戸先輩のことは、亮先輩って呼びますから」

「や、やめろ……っ!心臓に悪ぃからっ!!」

「え、なんでですか!」

頭を抱えた宍戸に心外な!と呟いた夢野はどうやら、宍戸の俯いた顔が真っ赤になっていたことに気づかなかったようだ。

亮と目があったので、とりあえず「御愁傷様」とクスっと笑ってみた。
ムッとした亮は拗ねたようにそっぽを向く。長い髪が揺れて、思わず自分の短い髪に触れた。




「……んふっ、どうでしたか?」

「んー、まぁこれから、かな。観月は乾杯してこないの?」

「もちろん、今から行ってきます。……丸井くんが乾杯し終わった様ですしね」

「え、あ、あの、俺も行きますっ」

観月が席を立ったのを見て、裕太が慌てていた。

あー、やっぱりね。とまた口角が上がる。
裕太の監視対象は観月なんだろう。

そして……

「クスクス、金田。赤澤のドリンクが空だよ?」

「はっ!あ、赤澤部長、何か取ってきましょうか?」

「ん?ははっ、なんだ。入れてくれるのか?今日は悪いな、金田」

「い、いや、気にしないでください」

そう言って、ちらりと僕を見た金田にまたクスクスと笑ってしまった。

ルドルフの他三年を一人でマークするには、金田じゃきついんじゃない?

そう浮かんだ台詞は口には出さず、とりあえず……とこの後の作戦を考えるのだった。

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