これはダメだろ……!
「ちょ、クソクソっ!跡部っ今のなんだよっ」
「跡部のアホーっ!ずるいCーっ!!」
「てめぇら……この乾のドリンク飲んで頭イカれてる女の一言で、なんで俺様が罵倒されなくちゃいけねぇーんだよ!」

お姫様抱っこを現在進行形で崩さないまま、跡部様が向日や芥川の台詞にイライラしたように返す。夢野は彼の腕の中で小さい子供のようにしがみついていた。

「でもでもっ、今のはちょっと意味深だにゃー!それになんかずるいっ!ってか、ほらぁ!見てごらんよ!ウチのお奉行様がショックで元の大石に戻っちゃったじゃん!」
「いや英二先輩。お奉行様、ちょっと邪魔臭かったんで戻ってよかったッスよ」
「そうだな……フシュウ……」
「……あ、あの、桃と海堂、二人とも……大石をこれ以上ションボリさせるようなこと言うのは辞めてあげてよ……俺まで心が痛くなるから、さ」

河村のセリフに大石を見たら、本当に酷く肩を落としていて、しおしおという表現がピッタリなぐらい干からびている。

「そっくしな……ショック死……ぷっ」

取り敢えず隣でまたつまらないダジャレを口にしたダビデの顔面に裏拳を無言で入れた。

「……っ、ちょ、バネさん、無言はダメだっ!裏拳もダメだ!超痛いっ蝶の遺体──ごふっ?!」

もう一度今度はダビデの腹に一発拳を入れてから、再び騒がしくなった夢野の方へと視線を向ける。

「ねーねー!詩織ちゃん、俺がギューってしてあげるCー!」
「んー、えへへ、ジロー先輩も大好きですっ」
「ちょ、お、俺は?!」
「はいっ、岳人先輩も大好きですっ」
「し、宍戸さん、どうしたんでしょう?!詩織ちゃんがっ」
「いやこれ……なんか大好きしか言わなくなってねぇか?」
「えー?じゃあ詩織さん、俺は?」
「滝先輩も大好きですよ!そう言えば前のあれお返ししなきゃ──」
「はぁ、それは辞めとけ」
「ウス」

滝に向かって瞳を閉じて、明らかに頬にキスをしようとした夢野を跡部様が止めた。
今はもう跡部様から下ろされて、夢野はぺたりと座布団の上に座り込んでいる。
樺地も同意するように大きく頷いて壁を作り、滝は拗ねたように唇を尖らせて頬杖をついていた。

「つかさ〜、さっきの柳の話から言うと、変な効果が切れ始めてるんじゃないのー?」
「あー、それでーなんか甘え方がさっきよりも子どもっぽくなってるのかもしれないですねー」

山吹の新渡米と喜多がそんな話をすると、千石が「え?じゃあ今なら大好きって言ってもらえるかもしれないってこと?!」と瞳をキラキラさせながら夢野に近付こうとするが、その上着をぎゅっと室町に引っ張られて止められていた。

「なんか本当に飽きないなー。まさかそんな面白いことに普通なる?」
「いや普通はならないと思うけど……森は笑い過ぎだって……」
「桜井、追加肉来たぞ。橘さんもどうぞ」
「あ、あぁ。……内村は一心不乱に肉を焼いてるな……」
「橘さん、内村は心を無にしているのかと……」
「え?石田、なんで?」
「……少し前の神尾と同じ状態なだけじゃん……あぁ当人だった神尾はわからないか……」

不動峰席のそんな会話にも若干苦笑する。
なんか本当にこいつら彼女のことが気になるんだなぁと頭をかいた。
ダビデのことばかりを気にはしていたが夢野が他にも人を惹き付けているのはわかっていて。だけど流石に蚊取り線香並の威力だとは……。

「日吉、ちょお離してや。俺は今すぐ詩織ちゃんと触れ合わなあかんと思うねん」
「だから必死に止めてんだよっ。ふざけないでください、忍足さん」
「自分だって、大好きってほんまに言って貰えるか気になっとるくせにっ!!」

「忍足と同じ発言すんの癪なんだけど、離せよ!ジャッカルと赤也!」
「仁王先輩が大人しくしてるんですから、丸井先輩も動かないでくださいっ」
「そうだぞ、ブン太っ!つか、赤也……それは仁王じゃねぇぞ……」
「え、あっ、本当だ!中途半端に変装させられてる柳生先輩だし……え?!あの人どこいった?!」

「おい、南。東方。……てめぇら、何コソコソ向こう行こうとしてんだよ……」
「「えっ?!よ、よく、俺たち二人に反応できたな!亜久津っ?!」」
「ダダダーンっ?!もしや先輩たちもこっそり紛れて夢野さんに大好きって言われるか聞いてみようと思ったんですか?!えええ、これは事件ですダーンっ!」

「んふっ、裕太くん。手を離してくれますか?」
「い、いえ、今日はちょっと離せそうにないですっ」
「クスクス、金田ー、柳沢とノムタク捕まえとかなくていいの?」
「い、いえ!冷静な判断を下すなら、淳さんだけをマークでいい気がしたので」

「うん、いっちゃん。四人も捕獲するとか流石だね。でも痛いかな、ははっ」
「サエも剣太郎も亮も、これ以上夢野さんに迷惑かけないのねー。首藤を捕まえたのはついでなのねー」
「えええ、僕の恋路を邪魔しないでよー、いっちゃんーっ!」
「はー……これじゃあ近付くことすらできないじゃん」
「俺はついでかよ……」

「っていうか、もうそろそろ腹いっぱいばい。金ちゃんはデザートに行くとやろうか?」
「もー既にデザート二週目やでー。でも、なー、ねーちゃんはどうやったら元に戻るんやー?ワイ、あんまあんなねーちゃん見たないんやけどー」
「見たないって……それはまさか金太郎さん?!」
「こ、小春、何をそない驚いて……」
「せやかてユウくんっ!!金太郎さんが嫉妬してはるんとちゃいます?!」
「……銀……。ちょっと俺、頭痛くなってきたんやけど」
「小石川はん、とりあえず緑茶でも入れてこようか……?」

「ふん、本当に愚かな馬鹿者ばっかりですね。まぁ……ウチも人のことは言えない状況になってきましたがね」

様々な奴らの様子を眺めていたら、隣の木手が眼鏡を押し上げて発言してきたので比嘉を見る。
確かに甲斐と平古場が新垣にジャージを掴まれてた。
……まぁ相変わらず田仁志だけはよく食ってんだけどな。

「いやしかし……これ効果切れた時……」
「ふふっ、どうやら切れたみたいだよ」

頭を抱えながら夢野に視線を送ったら、通路に立っていた不二が俺に笑顔でそう言って。

「なぁ詩織ちゃん」
「プピーナ」

丁度日吉を引き摺りながら氷帝の忍足といつの間に樺地の背後を取ったのか、仁王が彼女の前に顔を出したとこだった。

「……っひぎゃっ?!忍足先輩っ、仁王さんっ、近いですっ!!」

それから盛大にベチンっ!!と痛そうな音が二人の顔面で鳴る。
夢野が突き出した両手がそれぞれの顔面をそのまま叩いたのだが、物凄い勢いだった。
たぶん二人とも色白のほうだから赤く手のひらの跡がつくんじゃないだろうか。

「……え、っていうか、な、なんですか……?なんで皆さん、そんな入り乱れてるの……?そしてなんで注目されてんだ……私っ」

「……ふむ。キレイさっぱり記憶が無くなってるな」
「それはそれで腹が立つが……まぁそうなるだろうとは予測していた」

注目されていることに気づいたのか、夢野がオロオロとし始めて、ふうやれやれといった雰囲気で乾と柳がため息ついていたが、この騒動の原因はお前だよ乾。と心底ツッコミたかった。

「……詩織」

それから気まずそうに目線を逸らす奴らがほとんどの中、財前がちょいちょいと夢野を手招きする。
財前は俺ら六角席の前の通路にいたので、夢野が近くに来ることになった。

「な、何?光くん……」
「これ。さっきまでの自分」
「へ?」

まさかとは思ったが、どうやら財前は先刻までの夢野の行為を全て撮影していたようだ。

「え、は……はい?!え、な……っ?!いやぁあっ?!」

動画を見せられた夢野は財前のスマホを握り締めながら真っ赤な顔で奇声を発する。

「ちが、違う、違うんです、こんなの、私じゃ……っ!」

剣太郎、知念、平古場、柳、忍足謙也、幸村、跡部様と最後に氷帝メンバーを数人見回してから「こんなことしてないですもんっっ!」って言いながら、俺の目の前の畳に崩れるようにして両膝を着いた。
それからギギギッとブリキ人形みたいな音を出しながら、目の前にいる俺に顔を上げる。

「ば、バネさんは信じてくださいますよね?!私じゃなくて、乾さんのドリンクが──いや乾さんが悪いって!!」

その表情があまりにも必死過ぎて、つい吹き出しちまった。

「な、なんでそこで笑うんですか?!」

「い、いや、悪ぃ悪ぃ!……ただ、お前が可愛い奴なのはわかった!」

「バネさん……」

歯を見せて笑って頭を撫でたら、斜め後ろからダビデにじとっとした目で見られていることに気づく。それに夢野の後ろに立っていた財前もすっげー冷めた目で俺を見下ろしてた。

……いやでもまぁ。
さっき自分で考えた蚊取り線香の例えがシュール過ぎて、線香の周りにボタボタ落ちていく黒い蚊を想像したらちょっと笑えてくる。

「……あーでも跡部様の蚊とかすっげー金色な気がするわー」
「ば、バネさんが何考えてるのか超わかんないんですけどもっ」
「はは、その動画みてからもう一度その台詞言えるか言ってみろ」

うっと言葉に詰まった夢野がまた小動物みたいだったから、わしゃわしゃと飼い犬を撫でるように髪をぐしゃぐしゃと撫でてやったのだった。

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