皆で焼肉を食べよう
「……あれ?意外と普通に食べ放題の焼肉屋さんだった……いや、でも食べ放題メニュー以外には高そうなお肉もあるっぽい?」

「お前、一人で何ブツブツ言ってんだよ!」

お店に入る前のメニューウィンドウを見てたら、ぺちんっと後頭部を叩かれたので振り返った。
ちょっと呆れ顔の岳人先輩で、岳人先輩の隣には忍足先輩が立っている。

「岳人、詩織ちゃんの通常運転やろ」
「そんなことはわかってるけどよー!」

それからグッと岳人先輩に腕を掴まれたから、ビックリした。

「な、なんですか?」

「え?あ、いや……一緒に入るぞ?!」

「詩織ちゃんの確保したんは偉いで岳人」

それから顔を赤らめた岳人先輩に連行されるように店の中に入る。忍足先輩が反対側の隣に来たから、ちょっとビクッとしてしまう。
意識しないようにしなくちゃいけないのに、ダメだ!
忍足先輩も私が記憶が無いと思っているはずだから、変に意識してしまっては例のアレを覚えていることになってしまう。そうなると忍足先輩のことだから、私を普段よりも輪をかけてからかうに違いない。

「……自分……、ふぅん、そういうことかいな。詩織ちゃん」

ふぅっと耳に吐息を吐かれて「ぎゃー!!」と叫んでしまった。目を細めた忍足先輩が自身の唇を人差し指でなぞってから「……記憶あったんや?」と耳元で更に囁いてきて思わずべちんっと忍足先輩の顔面を平手で正面から押さえてしまう。

でもその手が掴まれて、そっと手の甲にキスを落とされた。

「ひっ……!」
「クソクソ侑士、何してんだよ!」

ガスっと忍足先輩に蹴りを入れた岳人先輩の背後に隠れることにする。
私、口に出してしまってないはずなのに……っ!必死に我慢したのに!なんで忍足先輩にバレてしまったんだろう?!

「……せやかて。詩織ちゃん、顔に出てておもろかったし……岳人もそない怒らんでも」

「いや、向日くんの怒りは真っ当やわ。なんやねん、今の!!」

顔に出てたのか!と驚愕している間に謙也さんが走ってやってきて忍足先輩の後頭部を叩いた。

「……夢野さん、どこ座るん?」

いつの間にか背後に立っていた白石さんに視線を向けたら、首を傾げて尋ねられる。
何処と言われても……。

跡部様の力によって貸切となった掘りごたつが並ぶ二階の座敷席を見つめた。
普段なら、細かく間仕切りされているであろうその座敷は、大人数の宴会用に広く使えるように間仕切りが取られている。
一階は通常の営業をしているらしいが、一階も二階も同じようにドリンクバーもアイスクリームやちょっとしたデザートバイキングコーナーもあって、他の階に移動しなくても大丈夫そうだった。

「どこも何も……っ、もちろん氷帝席だよね!詩織ちゃん!宍戸さんもそう思いますよねっ」
「あぁ、つか……それ以外に行かせるかよ」

白石さんの問いに答えようと口を開いたら、長太郎くんが私の前に立って、それから隣の宍戸先輩がボスっと私の頭を乱雑に撫でてくる。
というか……なんか、今宍戸先輩の台詞、胸にきゅんっと来てしまったんだけど……。あれ?

「まぁ、座敷っつっても、焼き場所とテーブルは別れてんだ。適当に学校単位で座ればいいだろ。……まぁ真ん中は俺様が頂くがな」
「ウス」

いつの間にかいつもの髪型みたいなウイッグを付けている跡部様が座敷席のど真ん中に座られた。片足を上げてて、すごく跡部様らしいポージングである。隣の崇弘くんは大きいのにきっちりと真っ直ぐ背筋を伸ばして座っていた。

「じゃ、じゃあ……岳人先輩、崇弘くんの隣に行きましょう?」
「お、おう!」

岳人先輩の手を引いて崇弘くんの隣に座ろうとしたら、スっと若くんが入ってきたから「え」と声を上げてしまう。

「……なんだ」
「若くん、いきなりビックリするんだけども」
「は?別に……空いてたから座っただけだが」

それからテーブルに肘を付いて、ムニッと私の頬を抓った若くんがふっと口角を上げた。

「アイツ……後でしばく」
「財前に同意したくないんだけど……俺も後で叩こうかな……」
「〜っ!せ、千石さんっ!今こそ行動の時ですよっ!氷帝の隣行きましょうっ」

光くんと深司くんと十次くんが何やら声を上げ始めて。

気づいたら、跡部様の横に崇弘くんが背負っていたジロー先輩が寝かされているのだけど、その隣に青学の皆さんが座り始める。
私の隣の岳人先輩に向って、対面席に位置するところにいる菊丸さんがピースして笑ってた。

「クソクソ、案外近いところに陣取りやがったな!菊丸めっ」

そんな言葉を吐き出した岳人先輩の隣は忍足先輩で。
従兄弟繋がりなのか、隣には謙也さんが座ってた。
と、この流れのまま四天宝寺の皆さんが席を確保する。

「浪速のスピードスター舐めんなっちゅー話やで!」
「……はぁ。隣が……謙也とかめっさ暑苦しいんやけど……」

「メンゴ!!室町くん、出遅れちゃったー!青学の皆、こっち側お邪魔するねぇ」
「いや……いいんですけど……俺らを挟んで今、幸村さんが隣に座られたんで、青学と立海に挟まれてる状況に……アンラッキーじゃないんですか?!今うち、亜久津さんもいるのに?!」
「ア?なんか文句あるのか、室町」
「ないです!けど、揉め事辞めてくださいねっ?!」
「大丈夫ですっ!僕がしっかり亜久津先輩を見守りますですっ」

「む?幸村、どうした?」
「……ふふ、ごめん。ちょっと可笑しくてね……」

山吹席の横になった立海席を少し見ていたら、幸村さんがクスクス笑いながら真田さんの肩を叩いていた。
それから涼し気な瞳が視線を向けていた私を捕らえる。
ビックリして慌てて逸らしてしまったけど、変に思われてないといいなぁと息を吐き出した。

それから、四天宝寺の皆さんの隣は不動峰の皆で。わぁわぁと既にメニューを皆で仲良く回して見ているみたいだ。

その隣がルドルフの皆さんで、はたと裕太くんと目が合ってしまった。
とりあえず、へらっと笑ってみる。
裕太くんが困ったような笑みで返してくれた。なんかはにかんだような表情で可愛かった。

通路を挟んで反対側の座敷に、比嘉の皆さんと六角の皆さんが並んでいて、思わず大丈夫だろうかと思う。
でも、この食事を通して少しは仲良くしてもらえたらいいなぁと思った。

「まぁ、座席は盛り上がってきたら自由に移動したらいいんじゃねぇの?別に食べた量を競うわけでもなし……」

跡部様が全員を見回して軽い溜息を吐かれてそんなことを口にする。

「え?競わんのー?なー、コシマエー、勝負かと思ったわー」
「やだよ。なんで勝負しなきゃいけないんだか」
「そうそう、競うなんてしたら、ウチの乾が黙ってにゃい──」
「ふふ、新作がたくさん出来ている。準備は整っているぞ……」
「──ほらぁ!!だから絶対やだ!!」

金ちゃんが大食い勝負しようやーとか言い出してた。
でも菊丸さんが叫んだ通り、乾さんの手には様々な怪しい飲み物が並んでいる。

「へぇ、僕は後で試してみようかな」

不二さんが穏やかにそんなことを口にされて、不服そうだった乾さんもほんの少しだけ嬉しそうだった。

「ふむ……、あの乾汁が原因で何か事件が起こる確率……八十パーセント、だな」

それから柳さんの不吉な台詞は何も聞こえなかったことにする。

皆さんがそれぞれ、好きなものを頼み始めたので、私は飲み物を取りに行こうと席を立とうとした。
その瞬間に若くんの手が私の手を掴むから、本当にビックリする。

「ど、どうしたの?」
「いや、お前こそ……」
「私、ドリンクバー行きたいだけなんだけど……」
「……ちっ、なんだ……それだけか。……いや俺も一緒に行く」

舌打ちしたり、息を吐き出したり、忙しい表情の若くんにちょっと笑ってしまった。
少し不愉快そうに見られてしまったけど、だってなんだか可愛かった。

「あ、宍戸さん、俺も行くので。宍戸さんの分も入れてきますよ」
「あぁ、サンキュー!長太郎」
「ウス、跡部さん、俺も取ってきます……」
「あぁ、任せたぜ」
「はい、……芥川さんの分も……」

丁度長太郎くんも崇弘くんも席を立ったので一緒に行くことにする。
その時に、岳人先輩と忍足先輩、滝先輩の分も若くんと二人でそれぞれ入れてくることにした。
ドリンクバーに向かうメンバーが皆二年生の皆で。
やっぱり先輩たちの分まで取ってあげるんだーとニコニコしてしまう。
後から金ちゃんとリョーマくんと葵くんも来ていたけど、葵くん以外の二人は自分用しか入れてなかった。





(……とりあえず、先輩らを動かさない作戦は成功したな)
(宍戸さんに関しては心が痛いけど、でも作戦は成功したね。……他校もうまくいったみたいだよ)
(……ウス。後は夢野さんを見失わないようにしときましょう……)


132/140
/bkm/back/top/
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -