お昼ご飯
午後からは青学対四天宝寺の試合と立海対名古屋聖徳の試合がある。
どちらも同時刻に始まるみたいなので、二つを同時に見ることは出来ないけど……流夏ちゃんが立海と名古屋聖徳の試合はまた録画しといてあげると言ってくれたので、ありがとうとお礼を口にした。

「ま、その前に昼食を食べましょう」
「うんうん、お腹空いちゃった〜」
「私はお昼を一緒したら、記事の編集しに学校に帰るわね」
「やっぱり報道部って大変そうだねぇ」

流夏ちゃんとタマちゃんが会場内のレストランでメニューを選んでいると、ちーちゃんが息を吐きながらそう言って。
私はちーちゃんの報道部の記事がどんなものになるんだろうと首を捻る。

「ふふ、まぁ氷帝は残念だったけど、ベスト8だし、跡部さんの記事なら注目されるでしょうし」

「楽しみにしてるね」

そう笑ったら、ちーちゃんがまた不敵に笑った。

「言っとくけど、次のターゲットは貴女だからね、詩織」
「へ?」
「あ、そっかぁ〜!コンクール本戦もうすぐだよねぇ」

メニューを決めて店員さんを呼ぶ。その間にタマちゃんがニコニコしながら相槌を打ってた。

「うわぁ、緊張してきたぁ……」

店員さんに注文をそれぞれしながら、私はドキドキと高鳴る胸に手を添える。
陸上大会の時の流夏ちゃんもそうだったけど、テニス部の皆もこの胸のドキドキを感じながら、コートに立っているのだろうか。
本当に凄すぎる。

氷帝が負けてしまって残念だけど、それでも残りの試合は全部この目に焼き付けたいと思った。


「お。皆ここにいたんだねー」

「滝先輩!」

ニコニコとレストランに入ってきたのは、滝先輩たちだ。
レストラン内にまだ残っていたらしい氷帝の応援団の人達が黄色い声を上げた。
それもそのはずである。
滝先輩の後ろにはレギュラーメンバーが全員いて、さらに滝先輩と共に姿の見えなかった跡部様と崇弘くんまでいたのだから。

「え、あ……崇弘くんまで坊主頭に……?」
「ウス」

私たちの座っていたテーブル席の隣のテーブル席をくっつけて、席を確保した崇弘くんに声をかける。
跡部様と崇弘くんを交互に見ながら頷いた彼に笑顔を向けた。

「うんっ、超似合ってる!カッコイイ!」
「ウ……、あ、ありがとう、ございます」

一瞬言葉を詰まらせて、崇弘くんが微かに微笑んでくれる。
カッコいいのは、もちろん跡部様と同じように自分から剃ったであろう行為のことも含めてだ。崇弘くんがどれほど跡部様を尊敬しているのかわかっているから、だからそれが彼らしくて、本当に胸がきゅうってなる。

「跡部様も意外と似合ってますよ」

「アーン?お前、俺様を誰だと思ってるんだ?」

「……跡部様」

跡部様に関しては丸坊主という感じではなかったけど……どっちかというと、超短髪になったようなだけのような気もしないが、でもフンっと鼻を鳴らしてふんぞり返った跡部様が跡部様だったので、これ以上は触れないことにした。

「私はどんな跡部様も受け入れ態勢バッチリです〜!ふふふ、ご飯八杯はいけますよ、今日は〜!」

タマちゃんは運ばれてきた料理をもぐもぐと口に放り込みながらもずっと跡部様を見つめている。会長さんたちは暫く再起不能な感じになっていらっしゃったが、タマちゃんに関しては流石だと思った。

「それで、跡部様たちも午後の試合も見られるんですか?」

「アーン?当たり前だろ」

「謙也も出るしなぁ。……まぁ他の奴らもサバイバル合宿やった仲やしな」

当たり前だろって返ってきたことに目を細める。良かった。好敵手って感じで見ていて清々しい。
忍足先輩はその後、店員さんを呼んで皆の注文をまとめて頼んでいた。
その様子を眺めていたら、頼み終わった忍足先輩が私の方に視線を向けたから慌てて逸らす。

……はっ!
普通に接するつもりで頑張ってたのに、今のはやってしまった。

「詩織、ご飯粒ついてる」

そんなオロオロしていた私に流夏ちゃんがナプキンを持って手を伸ばしてくれる。
私はただされるがまま口の端を拭いてもらってしまった。

「……んー、眠いけどー……今の詩織ちゃんが可愛かったから頑張れそうだCー」
「いやその前に頼んだものぐらい食べろよ!ジローのアホっ」
「がっくん煩いCー」

むにゃむにゃ言いながらニコニコと私を見ているジロー先輩に岳人先輩が頭を叩いていた。
それを見ていた宍戸先輩が「激ダサだぜ、ジロー」とかいつものセリフを口にしてて。
長太郎くんはそれをニコニコ見ている。
若くんは鼻で笑ってて、忍足先輩が岳人先輩とジロー先輩の間に入って、滝先輩はそんな皆を見つめてた。
そして中心に跡部様と崇弘くんが静かに座ってる。

あぁ、氷帝の──私の大好きな皆だなぁ、なんて。
そんなことを想った。


「はーい、皆さん、折角なので報道部として集合写真撮らせてくださいー」

「げ。いきなりかよ、篠山」

「ふふ、日吉?言っとくけど、貴方の泣き顔激写してるから。あんまり煩いと、うっかり新聞に載せちゃうかも……」

「なっ?!くっ、お前……っ!人を脅すなっ」

「……じゃあ、集合写真撮らせて貰えたら、詩織の写真差し上げますけど、いかがでしょう?」

「ええで。何枚でも撮ってもろても」

「ちーちゃん!!しょ、肖像権侵害だと思う!!私の写真を勝手にあげないで!で、でも、若くんの泣き顔くださいっ」

「ふ、ふざけるなっ、篠山、今すぐデータを消せっ!!」

ガタッと珍しく席を立つ若くんに食事を終えたらしいちーちゃんは皆の写真をパチリと撮ってから「では失礼します〜」とレストランから出ていってしまった。

軽やかに私のことまで無視して行ってしまったけど、それがちーちゃんらしかった。

それから暫くして、ピロンっとスマホにちーちゃんからメッセージが届いて。
アプリを開いたら、若くんが泣いている横顔の写真だったから思わず一度すぐに画面を閉じてしまった。変な奇声が上がってしまって、顔を上げたらタマちゃんがニヤリと笑っていた。
流夏ちゃんは他の人たちを見ていたらしく、こっちを向いていなかったけど……と思って、若くんたちに視線を向けたら皆自分のスマホを見てる。

え、待って……何か嫌な予感がした。

「……詩織ちゃん……あ、あの、ほ、保存するね……」

長太郎くんが少し赤らんだ顔で口元に手を当てながら、私を見ずにそんな言葉を吐き出すように言って。

「ば、馬鹿野郎っ!なんでこんな写真チョイスして送ってくんだよっっ」

その長太郎くんの隣でテーブルに突っ伏した宍戸先輩が物凄い音を立てたので心配になった。

いや、それよりも……私の何の写真なのだ。

無表情でじっとスマホの画面を見ている忍足先輩も怖いし(しかも微妙にスマホの角度を変えたりしてるのが恐怖)、ジロー先輩が目をぱちぱちさせて、スマホと私を交互に見てる。
岳人先輩は長太郎くんよりも顔が真っ赤だ。崇弘くんも仄かに顔を赤らめているような気もする。
滝先輩は「詩織さん、やるねー」とスマホを胸ポケットに入れてから私へと微笑んだ。
跡部様はもう普通にスマホを片付けて紅茶を飲まれている。

「わ、若くん、見せて!」

「……断る。お前のとこに届いた写真データを消すなら見せてやってもいいが」

最後にスマホと睨めっこでもしているのかなと思う表情でスマホを睨み付けていた若くんに声をかけたら、口角を上げてそう言われてしまった。
若くんの写真を消すなどしたくない。
だけど、私のなんの写真かも気になる……っ、超気になるけども!

暫く葛藤していたら、もう時計の針がだいぶ進んでいて、試合開始が迫ってきていたのだった。

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