逃げた先は狼の巣
「うわ……なんやろ、今ゾクッとしたわぁ……なんや、あと数分後にボロカスに言われとるような気がする……」

「忍足先輩、それ何の予知ですか?」

後ろを着いてきている忍足先輩に首を傾げたら「わからへんけど……俺、胡散臭いんかな?」と逆に首を傾げられる。

胡散臭いか臭くないかで言えば、何故か忍足先輩は関西弁を操る人の中でも断トツ胡散臭い気はするが──「ひどいな、自分」──とりあえず、口を抑えて笑って誤魔化した。

「それで、何探してんの?」

「いや、なんか……あ、ほら、見てください。ここにもあった!」

ヒョイっと廊下に落ちていたドングリを拾い上げて忍足先輩に見せる。

雨で試合が中断になって、この広い建物の中で待機している時に、点々と続くドングリを見つけたのだ。と言っても、実際に見つけたのは金ちゃんなんだけど。
金ちゃんはその後リョーマくんを見つけて飛んで行ってしまったので、一人でドングリを拾い集めて今に至るのである。

「ドングリ……なんでなん?」

「いや、私に言われてもよくわかんないんですけど……なんか道標みたいに落ちてて……なんかこういうの気になりません?」

「んー、詩織ちゃんの何かやったら集めるかもしれへんけど」

「ゾワッてするからそういうの辞めてください」

「悲しなるわぁ」

そう言いながら忍足先輩は全然悲しそうな顔してなくて、反対に色っぽい表情で口角を上げるもんだから、どうしたらいいのかわからなくなった。

「……あ」

またドングリを拾い上げる。
そして顔を上げて横を向いたら、医務室みたいな所だった。

そしてその中にも点々と続くドングリ……。

「この中に犯人がおりそうやな」

「ですね……」

忍足先輩の言葉に頷いて、恐る恐る中に入る。

ただ、なんとなく……
薄々とこのドングリを落としている犯人が私の頭の中に浮かんでいた。



「……やっぱり」
「なんや四天宝寺の千歳やん」

ガランとした医務室みたいな部屋の中、ベッドに横たわって眠っているのは千歳さんだ。
そしてその手の中にドングリの入った袋を持っていた。少し底の方に穴が空いていて、そこからポロポロとドングリが零れ落ちる。

「千歳さ──」

その時、ピカッと医務室の窓の向こうが光った。
ゴロゴロと唸る黒い雲。
落ちた落雷の音に思わず条件反射で、起こそうと揺すっていた千歳さんに抱きついてしまう。

「んあ?なんね……夢野さんやなかか?」

「すまんなぁ。千歳。詩織ちゃん、雷があかんねん」

起きたらしい千歳さんが体勢を起こしてしがみついている私の頭を撫でてくれた。

「あー。そんなこと言っとたばいね……」

忍足先輩がそっと私の肩を引き寄せてくれる。

でも窓の向こうでは空がまだ唸っていて、またチカチカと光が見えた。
私の中で変な焦りが出てきて、千歳さんと忍足先輩に迷惑をかけてしまう気がする。
心臓が既にドドドと早鐘を打ち始めた。
頭の中で飛行機の映像がフラッシュバックして、歯がカチカチと震え始める。
指も既に震えていた。

「……っ、あの、無理かもしれないので、私に近付かないでくださいねっ、ご迷惑掛けてしまいそうなんでっ!!」

「いや、無理って……」
「どぎゃんしたと?」

二人の心配そうな顔が見えたけど、千歳さんの隣のベッド側に逃げ込んで、閉まっていた間仕切りカーテンをシャッと開いてまた勢いよく閉じる。

「詩織ちゃん、そない逃げ込まんでも」
「だ、だって、私、抱きつき魔の上、キス魔にまでレベルアップしたのでっ!!先輩らの近くにいれませんっ!!私なら布団かぶってよくやり過ごしてますからっ、自宅で!!」

そしてまたピカっと光って大きな雷が近くに落ちた。
思わずその場でジャンプしてから、バッとベッドの布団を被るつもりで掴む。

「……えっ」

その瞬間、布団の中から飛び出てきた手に腕を掴まれて、そのまま引き寄せられた身体はベッドの上に倒れ込んで布団が全身に被せられた。

頭の上の布団の隙間から盛れる光で布団の中にいたその人の顔がはっきりとわかる。

「仁王さ──」

しっと仁王さんの人差し指が彼の唇の前に置かれた。

「……忍足と千歳にバレるき」

そういう問題じゃなくて。
むしろバレた方がいいのではと思いながら、ずっとあの電話から話したかった仁王さんが間近にいきなり現れたことに心臓が煩くなる。

立海の試合はまともに見れなくて。
だから会話も全然出来なくて。
むしろ顔も合わせることはないままだったのに。

かぁーっと熱くなるとともに、雷の音で仁王さんの体温の低い身体にしがみつく。
布団の中だからか、狭いベッドの上だからか、脚が重ねるように絡まった気がした。

「……夢野さん」

そっと耳元で囁かれて、吐息が耳に当たる。

ゴロゴロ、ドゴーンっ!!と、今までの中で一番大きな雷がすぐそばに落ちた。

「お父さんっお母さんっ……!」
「大丈夫じゃ」

優しい声音に顔を上げたら、鋭いはずの仁王さんの瞳がとても優しくて。
甘く蕩けそうなほどの視線に全身の力が抜けたような気がした。

121/140
/bkm/back/top/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -