シングルス3で桃城が氷帝の忍足に負け、ダブルス2にて向日・日吉に対して乾・海堂が勝った。
これで一対一。

グッと握ったグリップの感覚に瞼を閉じる。
ボタボタと零れ落ちる雨水。

桃城が雨が降りそうだと言っていた通り、俺と樺地の試合は雨が降った。
そのお陰で樺地に勝てた、といっても過言ではない。

「本日は雨により、青学対氷帝の試合は中断とします!」

立海の試合は立海のストレートで終わったと試合が始まる前に耳に入った。



「崇弘くんっ!」

不思議とその声が雨音を通り抜けて、耳に届く。
不二から手渡されたタオルを頭から被り、視線を向けた。
濡れた眼鏡のレンズ向こうで、樺地にタオルと傘を差し出しているのは夢野だ。

「謝らないで?崇弘くん、かっこよかったよ!手塚さんの技もコピーして……本当に凄かった!」

彼女の声はよく通るのか、そう樺地を慰めている声だけが響く。
いや……違うのだろう。
俺が彼女を気にしているから。
その答えに眉根が寄る。

「手塚。風邪ひくよ」

竜崎先生の声に「はい」と短く答えてからコートを出た。





「不動峰と四天宝寺戦も明日に流れたみたいだね」

雨が上がるかもしれないという期待は綺麗に消え、今日は試合が行われることは無いようだ。
不二の声に頷いてから、小さく溜息をつく。

「はぁ……となると、明日は氷帝戦に勝てたとした場合……そのまま、午後から準決勝になるのか……」

「あぁ、そうなるな」

大石の台詞に頷いて、体を温めるようにと手渡された緑茶を口に含んだ。
応援に来ていた者たちはこの雨でほとんど帰ってしまったようで、この広いホールにいるのは出場選手が多い。だが、敗退した知り合いの学校の選手たちがまだ残っているのは、彼女のせいだろうかとふと思う。


「よぉ、手塚」

「跡部か」

「今はそっちが優位だが、明日……楽しみにしてろよ」

「あぁ、油断せずにいこう」

頷いた瞬間、ピカッとホールの大きなガラス窓に光が走った。

「うわっ!」
「……やれやれ」

大石が大袈裟に驚き、乾がサッと今まで広げていたノートパソコンの電源を落とす。
そう言えば、二人とも雷が苦手だったか。と思ったところで、俺はバッと今まで腰掛けていた白い椅子から腰を上げた。

ゴロロロ……と低い唸り声らしきものが黒い雲から発せられる。
これはまた雷が落ちそうだ。

「アーン?まさか手塚、アイツの心配してねぇだろうな?」
「……夢野は大丈夫なのか?」
「ったく、図星かよ」

やれやれと言った様子で肩を竦めた跡部は「さぁな。だがさっきうちの忍足と──やべぇ、おいっ、樺地っ!!」とパチンっと指を鳴らす。

「なんで向日さん、忍足さんと一緒にいないんですかっ!」
「クソクソ!日吉っ!俺が常に侑士と一緒だと思うなよ!!」
「宍戸さん、俺、さっきあっちで見かけたんですっ!!」
「急ぐぜ、長太郎っ!!」
「あはははは、皆慌て過ぎっ」
「の割には滝も走ってるCー」

突然席を立ってバタバタし始めた氷帝メンバーに俺も眉間に皺が寄った。

「……手塚部長。アイツ、確か雷鳴ったら人に抱きつくし、キスしてきますよ。全部体験談なんで」
「あー!!そうだった!!こうしちゃいられねーな、いられねーよ!行くぞ、マムシっ」
「わ、わかってる!命令すんなゴラァ」
「た、大変だ!大石、不二、探さなきゃ!!」
「英二、い、急ごう!夢野さんが間違いを犯す前にっ!!」
「ふふ、大石の言い方面白いね」
「いやいや笑ってる場合じゃないんじゃ……!」
「ふむ、河村も慌てるとは……やはりあの夏祭りの時の反応はそういう意味か……」

そして一緒になって走り始めたメンバーに溜息をつく。

「伊武っ、室町っ、急がなっ……!」
「「わかってる……っ」」

財前が伊武と室町と顔を見合せたと同時に他校のメンバーもこの建物内を捜索し始めたようだ。

「幸村部長っ!これ、アレなんっすよ!!真田副部長に前、雷が怖くて夢野が抱き着いたことあって!」
「な、何故、俺の例を出すっ!!」
「あぁ、他校の話も聞こえたから状況は分かったよ。サバイバル合宿の時はよくわからなかったけど……とりあえず急がないと……って、柳生、仁王は?」
「い、いえ、それが……雷が鳴った時にはもう姿がなく……」
「まぁ普段からふらっといなくなることが多いからな……どこか静かなところで休憩していた確率八十パーセント……」
「とりあえず、夢野を探すだろぃ?」
「そ、そうだな!行こうぜ、ブン太!」

最後にそんな会話が立海メンバーからも聞こえて。
四天宝寺、比嘉、山吹、六角、ルドルフ……。

慌てている彼らにまた眉間の皺が深くなった。

何故かはわかっている。
もう誤魔化しきれないほど、俺は彼女を目で追っているのだから。

……頭から離れないのは、彼女の笑顔とヴァイオリン。

ふぅっと、もうその時には息苦しかった。

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