そう声を張り上げて、大ハブを繰り出す。
だが、わんの大ハブは暫くして不二の第四のカウンター蜉蝣包みによって見事に返された。
そして河村の波動球に寛が打ち返せずリターンエースに。
そこから一気に逆転され、負けた。
永四郎と監督の視線がわんを刺すように見ている気がする。でも、別に怖くもなんともない。
「平古場クン」
「はいはい、わかってるし」
永四郎に肩を竦めてから、入れ替わりでコートに入る裕次郎の肩を叩いた。
「……卑怯なことしなくても、普通に強くてカッコイイだってさー」
「昨日のはわんやし。……後で六角の奴らにも謝るさー。それに夢野にも。でもその前に……全力でやるばぁ」
裕次郎の真剣な顔が対戦相手を見つめる。
ダブルス専門のはずなのに菊丸かよと少し驚きながら、わんは控え選手の場所を飛び越して、応援席を移動した。
それから青学側のとこまでゆっくりと歩く。
何人か青学の奴らに睨まれるが、気にせずルドルフの連中と一緒にいる夢野を見た。
呆気に取られたようなそんな顔でわんを見上げているのが妙にあほ面で。
「こっちこいやっしー」
「え?!え?」
通路側に来いと手招きして、わんの目の前に立った夢野を見下ろした。
ルドルフの連中も青学の連中も、そして永四郎たちもわんを見ている気がするが、そっちはそっちで試合に集中しろと言いたい。
「おい、ふらー」
「は、はいっ!」
ばっと背筋を伸ばした夢野の視線が真っ直ぐにわんの視線と絡まった。
昨日確かに逸らされた視線。
もう二度と口も聞いてもらえんかもしれんし、メッセージアプリからもコイツは消えるかもなぁなんて思ってた。
でも違った。
「……まくとぅぃやーやゆーわからん」
「わ、私が平古場さんの言葉がわからんですっ」
ビシッとイラッとした分デコピンしてやる。
「だーかーらー、やーは本当によくわからないやつだって言ってるばぁ」
「し、失礼な!わ、私、別に昨日のこと許してないですけどもっ六角の皆に酷いことしたのは怒ってますからっ」
ぷいっと気まずそうな顔で額を抑えながら横を向いた夢野に、あぁ本当にいふーなふらーだと思った。
「おい夢野」
「な、なん──」
──チュッとリップ音鳴らして、夢野の額にキスを落とす。掴んだ夢野の細い手首がちょっと遅れて力を込めていたが、もう意味無いさー。
「──でぇ?!」
「はっ、色気のねー悲鳴やし」
鼻で笑って口をパクパクさせている夢野に目を細めた。
夢野の後ろで無意識なのか立ち上がった不二裕太を一瞬見る。
真っ赤な顔してこっちも酸欠の金魚みてー。
裕次郎も動揺しそうやし、今日はこれぐらいで勘弁してやるか。
「じゃ、戻るわ」
間抜けな顔で固まっている夢野にまたデコピンしてから、元来た道を戻った。
永四郎には溜息つかれて、寛に「新垣が頭抱えてるさー」と耳元で囁かれたから視線を送ったら本当に頭抱えてて鼻で笑っちまう。
──負けたのになぁ。
スッキリした気分なんは、全力出し切った本気の勝負を楽しんだこともあるが、もう一つそれにプラスして、いふーなふらーのせいだろう。
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