でも、それでも。
僕らは──山吹中の先輩たちは、とてもよく頑張ったと思った。
室町先輩が肩を震わせて静かに泣いていて、僕もついズビッと鼻水を啜ってしまう。
さっきすれ違うように歩いてきた亜久津先輩が皆の手に缶ジュースを投げてきて。
そのまま去ってしまったけれど、やはりあれは亜久津先輩なりの優しさだと思った。
千石先輩も南部長たちも苦笑いで、それでも嬉しそうで。
言葉もかけずに去っていく亜久津先輩が亜久津先輩らしい。
やはり去っていく背中は大きい人だ。
「あ、そうだ!夢野さんから、連絡が来てたので、きちんとお伝えしないと……」
「そういえば、皆にも来てるんじゃない?」
千石先輩の台詞に新渡米先輩と喜多先輩も携帯を確認して「あ、本当だ。応援メール試合前にくれてたんだな」なんて呟いた。
「うんうん、来年は頼んだよー、室町くん!」
「え?!」
「あぁ、そうだな。俺の地味な部長ポジションを継ぐのは室町しかいないな!」
「俺の地味な副部長は喜多に譲ろう!」
「ええ……」
「俺、役職嫌なんだけどー」
千石先輩のセリフから南部長たちも乗って、この場で次期部長と副部長が決まりそうな流れについ笑ってしまう。
困ったような、でも少し表情が明るくなった室町先輩と、本気で面倒臭そうな顔をしている喜多先輩の対象的な様子も負けてしまった悔しさをどことなく薄めてくれる。
「よしっ、いくですっ」
通話ボタンをえいっと気合いで押した。
何回かの呼出音。
『……もしもし、壇くんですか?』
耳に聞こえた優しい音に「はいですっ!」って答えた瞬間、ぶわっと涙が溢れた。
『わ?!壇くん、壇くん?!』
夢野さんの声に返事をしなきゃと思うのに、大粒の涙がボロボロと零れ落ちてしまう。
南部長が「壇、落ち着け」とまた優しい声音で言ってくださって。
「ま、負けちゃいましたぁ……ダーン!」
あの、リリアデント・クラウザーさんのいる名古屋聖徳中が勝ち進めてますって一生懸命言葉を続けた。
『そっかぁ……。皆のかっこいいところ、実際に目に出来なくてごめんね。本当は山吹の応援にも行きたかったなぁ。私がさっきこっちでやってた試合の菊丸さんみたいに分身出来たら良かったんだけど……』
夢野さんの声が皆に聞こえるようにと、スピーカーにしていたから、そのセリフは皆で共有して。
「……まだ、そっちは試合やってるのかい?」
千石先輩の声にビックリしたのか、一度『ひゃ』と変な声を上げた夢野さんは『氷帝の試合は終わってるんですけど。……今、木手さんと手塚さんの試合が……終わりました』と続けてくれた。
それから少し間があって。
『……壇くん、壇くん、落ち着いた?』
遠慮がちに僕を呼ぶ声が聞こえる。
「は、はい!お見苦しい……いえ!お聞き苦しいところを!すみませんですっ」
そう早口で返事をした。
後ろから『ちょっと前の夢野も号泣していただーね』『柳沢さん、うるさいだーねっ』と向こうで会話しているのが聞こえて。
あぁ、やっぱり夢野さんの周りには人が沢山いるなぁとぼんやりと思う。
『あ、あのね、壇くん!聞こえているなら、十次くんも千石さんも……それから南さん、東方さん、新渡米さん、喜多くんも!あ、もしかして仁さんもいらっしゃいます?』
「亜久津先輩はもう帰っちゃったですダーン……」
『そうなんだ……あ、えっと、そのっ!皆でご飯食べに行きませんか?!』
夢野さんの言葉に、僕たちは顔を見合せた。
ふっと皆表情が緩んで。
「「「もちろん行く」よ、ラッキー!」です、ダーン」
重なった台詞に皆して笑ったです。
116/140