目が回るほどの熱量
四天宝寺の皆さんに声をかけてから、不動峰の応援席に戻ったら杏ちゃんに声をかけられた。
それから暫く杏ちゃんと不動峰の皆の試合を見つめる。
一生懸命なその姿に頭の中で色んな音楽が溢れてた。少し遠いけど、四天宝寺の皆の試合も見えた。

ジリジリと肌を焼く太陽の暑さに目眩を起こしそうなほどで。
日焼け止めも塗ってきたけれど、これはあまり意味が無いかもしれないなと思った。

ブブッと震えたスマホにちーちゃんからのメッセージが表示される。


千早>氷帝、もうすぐ始まりそう。あと、隣で比嘉と青学の試合も始まるわね。


わかった、すぐいくね!と返信してから、隣の杏ちゃんの手をギュッと握った。

「……うん、ありがとう。詩織ちゃんの気持ち受け取っとく」
「えへへ、杏ちゃんありがとう!」

それからシングルス戦の終わった汗だくの深司くんに大きく手を振ってから、今からコート内に入っていく鉄くんと雅也くんにも手を振った。

「深司くん、お疲れ様!鉄くん、雅也くん、今から頑張ってね!!」

声が届いたかどうかは分からないけど、精一杯大声を出す。
流石に四天宝寺の皆さんに声はかけられないなと思って、光くんにメッセージだけでも送っておく。


パンダ詩織>シングルス戦、かっこよかったよ!光くんの試合だけでも見れてよかった!他の皆さんにもよろしく伝えてね!







──コートから少し離れるだけで熱気が違う。

日差しに目を細めながら、ちーちゃんがいる氷帝の応援席を目指した。


流夏>……ねぇ、試合ってこんなに早く終わるものなの?既に三つの試合、全部うちのとこの勝利で終わってるんだけど。


途中で流夏ちゃんからのメッセージに目を見開いた。
立海の試合はもう三試合も終わったんだ。
確かまだ幸村さんは試合には出場自体してないはず。
……やっぱり、強いんだなぁ。なんて、流石王者だと心が踊った。
何故かなんて上手く言葉に出来ないけど、皆さんの練習を何回も間近で見ていたし、あれだけ努力していた皆さんを知ってる。
だから、すごいって純粋に興奮しているのだ。

指が動く。
腕がヴァイオリンを構えようとする。

「ふふっ」

もう自分がおかしくて、人の目も気にしないでくるくる回りながらワルキューレを奏でているつもりになった。

「……は!こんなことしてる場合じゃない!」

「せやなぁ」

ハッと気づいて顔を上げたら、目の前に昨日のお兄さんがいたからビックリする。
クッと笑っている様子から、私の奇行を目撃されていたらしい。恥だ!!

「立海の試合やったら、はよ見に行かんと」

「い、いえ!私は今氷帝生ですから!」

「……あぁ、事故におうた後は氷帝なんか。月光さんとこやなぁ……」

私のことを調べたのかなって思ってから、でも昨日立海におったやろとか言ってたし。たぶん、立海の卒業生なんだとは思う。

「では失礼しますっ!」

「あぁええで。やけん、この名前だけでも覚えといて。俺、毛利寿三郎言います」

「毛利さんですね、分かりました!覚えてるかは確約できませんけど……!」

振り返りながらそう言ったらまた吹き出された。
よく分からない人だなぁと思いつつ、跡部様の姿が視界に入ったので、一生懸命足を動かす。

「詩織」
「詩織ちゃん!おはよう!私、今日は見に来れたよ〜っ」

ちーちゃんの声に続いてタマちゃんがふんわりと笑って手を振ってくれた。
急いで隣に移動して、整列してる若くんたちに視線を向ける。

少し向こうに視線を送ったら、比嘉と青学の皆さんも整列してた。
心臓がドキリとする。

悪そうな顔で笑っている比嘉の監督さんが竜崎先生を見ていた。
あのハゲた頭に虫眼鏡でも掲げて、この暑いまでの日差しの熱光線を当ててやるぞっそして発火したらいいのにって頭の中で毒を吐きながら鼻息荒くしたら、隣のちーちゃんに軽やかに笑われる。
……また口に出ていたらしい。恥ずかしい。

それから暫くして試合が始まって。
リョーマくんと田仁志さんの試合が長く続いているのが見えていたが、歓声から長い戦いはリョーマくんが勝ったらしい。

私がチラチラと向こうの試合を気にしているせいか、そっとちーちゃんに「氷帝の試合は録画しておくから、あっちに応援に行ってきたらどう?」と言われてしまった。

示された方向に目を向けると、いつの間にかルドルフの皆さんが青学の応援席にいる。
裕太くんも見えたから「ご、ごめんね、移動いっぱいして!行ってくる」って二人に声をかけてから席を立った。


見るものが多すぎて。
応援したい人達が多すぎて。

十ヶ月ほど前、両親を失って一人ぼっちになってしまったと愕然とした時の気持ちが遠い遠い昔のようだ。

神様は私だけを助けて何がしたかったんだろうと毎日泣いていたあの日々。

奇跡の少女だとかそんなものはいらなかった。

ただ、私をいつも見守ってくれていた、私を大切にしていてくれていたお父さんとお母さんがいなくなってしまったことが辛くて。

ヴァイオリンを弾きながら、ずっと両親への繋がりをそこに求めていたと思う。
嫌な思いのするコンクールからは逃げてばかりで。

でも皆がテニスをする姿を見たり、宍戸さんの断髪した決意を見て私は私の音楽を進みたいと心に誓った。
サバイバル合宿では、たくさん皆の色んな表情を知ることが出来て、もう最近では私の頭の中には様々な音楽の色が渦巻いている。
プロである初音さんに音が変わったと褒めて貰えたのも、全部みんなのおかげだ。
だから──



知念さんと平古場さん、不二さんと河村さんのダブルスの試合が白熱してる。

「……ちょ、な、なんで来た早々泣いてるだーね?!」
「めちゃくちゃ号泣してるし!」

「うわーん、違うんです、汗なんですぅ……っ!」

柳沢さんと野村さんに突っ込まれて、必死で否定しながらズビビッと鼻を啜ったら「クスクス、それも汗っていうつもりかな?」と淳さんに笑われた。

それから、呆れたような顔した観月さんにハンカチを差し出される。

「うう、ありがとうございますっ」
「何故泣いているかは敢えて聞きませんけど。大体予想はできるんで」
「ええー……観月さん私の心理状態予想できるんですか?!ひっく、私のママンですかぁ」
「だ、誰が母親ですか!まったく……」

はぁっと溜息をつかれた。

「……兄貴、相当怒ってるみたいだ……」

裕太くんが私の頭をそっと撫でてから、不二さんに視線を向けてぽつりと漏らす。

「さっき、木手が合図みたいなのをして、不二の顔面を狙ったり、先生を狙ったり……」
「合図みたいなのって、よくわかりましたね!赤澤部長っ」
「あぁ、たまたま、木手を見ていたから……」

一郎くんの言葉に苦笑した赤澤アニキの説明で、やっぱりあの監督さんの意思だけじゃないのかなって、少し落ち込む。
でも、私が知っている木手さんは完璧なヒールじゃない。ヒールを演じているだけだって、ちゃんと思い出したんだ。

「おや?何か動きそうですよ」

観月さんの台詞にハッとして顔を上げたら、悪そうな笑みを浮かべた、あのハゲ頭の監督さんが見えた。
不二さんが察知したようにベンチに走る。

でも次の瞬間に平古場さんは普通にボールを返していた。

比嘉の監督さんが怒ってるけど、それに怒鳴るように「いい所だから邪魔すんな!」と平古場さんが言葉を発した。

ヒラリと平古場さんの長いジャージが揺れる。

「そうですよ、ハゲ頭の監督さん、邪魔しないでくださいっ!だって、比嘉の皆さん、普通にテニスしても超強くてカッコイイじゃないですか!!」

ギュッとスカートの布を掴んで叫んだ私の声がどこまで響いたかは分からないけど、試合を見守っていた木手さんたちとは目が合ったような気がした。

「……正直、亮から話聞いてたから、腹立つけど……でも、あのサバイバル合宿で一緒に過ごしたから、彼らのこともまぁ……」

視線をたくさん感じて、カァーと顔中に熱が集まって俯いていたら、淳さんがぽつりと呟いて。

「しかし、ここは青学側の応援席だーね」
「わ、わかってますよぉ!わ、私が言いたいのは、青学の皆さんも普通に強くてかっこいいし、比嘉の皆さんだって、卑怯なことしなくても、普通に強くてカッコイイじゃないかってことで……っ」

柳沢さんの台詞に限界点突破してしまった羞恥心が踊り出してどこかにいってしまいそうだったから、両手で顔を覆った。
一生懸命言葉を吐き出したけど、青学の皆さんや六角の皆さんに申し訳ない気持ちになる。
でも、私は皆さんがどういう人か、そばで見ていたから……!

「「お前が言いたいことはわかってる」」

そう言って選手控えの場所から振り返ってくれたのは、桃ちゃんと薫ちゃんだった。
指の隙間から見えた二人の表情が眩しい。

その言葉が嬉しくて、また私は緩んだ涙腺に蓋をするようにギュッと瞼を閉じたのだった。

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